視野検査について(その2)
院長 廣辻徳彦
前回は眼科検査のうち、視野検査の紹介をしました。「眼を動かさずに見えている範囲」、厳密には「視覚の感度分布」を測定するのが視野検査です。見える範囲を広く測定する動的視野、中心部分の細かな感度測定をする静的視野を組み合わせることで、いろいろな病気の診断や進行度の判定に役立てることができます。
視野は網膜から神経、脳にいたるどこかの部分に障害が生じると異常を示します。網膜の病気では様々な出血、血管閉塞、網膜変性症や網膜剥離など、異常を生じた部分の視野が悪くなります。視神経の病気では緑内障や視神経炎などで特徴的な視野異常が現れます。脳梗塞や脳出血、脳腫瘍でもそれに対応した部分の視野に異常が生じるので、見えにくいと感じて眼科を受診して視野検査を行った結果、脳の病気が見つかることもあるぐらいです。今回はいろいろな病気とそれに対応する視野の変化をご紹介します。
数だけでいえば、最も視野検査が行われているのは、緑内障の診断と経過観察に関する場合です。緑内障の患者さんが多いのが一番の理由ですが、進行度の判定には視野検査が必須であるというのも大きな理由です。緑内障は特徴的な視神経の形状と視野異常から診断がつく病気で、病気の進行を防ぐために眼圧を下げる治療をします。どのぐらい眼圧を下げればいいかは、視野検査を行って進行しているかどうかを確認して考えることになります。
緑内障の進行具合と視野の関係を図に示します(右眼)。左から初期、中期、末期の緑内障の見え方の模式図と実際のハンフリー視野です。上に示す模式図で灰色の部分は見えていないところです。ハンフリー視野では黒く表されているほど感度が悪いことを示します。緑内障の経過観察に視野検査は必須ですが、どれぐらいの間隔で行うのが良いのかというと、教科書的には約6ヶ月と言われています。しかし、視野検査は経験されればわかりますがそれなりにしんどい検査なので、実際には視野の進行度と眼圧のコントロール具合で間隔を考えます。
緑内障以外で特徴的な変化を示す病気をいくつか挙げてみます。下図左は網膜色素変性症の視野です。網膜の色素上皮と視細胞というところに障害が起こり、視野が全体的に狭くなる(求心性視野狭窄)や中心と周囲を残してドーナツ状に視野が欠ける(輪状暗点)が特徴です。下図中は錐体ジストロフィーという病気で網膜の中心部分の錐体という細胞が障害されます。視野では中心部分に当たるところが暗点として示されます。黄斑変性症や黄斑円孔という病気でも中心部が障害されるので、同じような視野になります。下図右の2つの視野は右側半分だけが見えて左側の視野が欠けていることを示します。左部分が欠けているので「左同名半盲」と言いますが、この場合は右の後頭葉の広範な脳梗塞で生じた実際の視野です。他にも視野検査で「両耳則半盲」という結果が出れば下垂体腫瘍が診断できますし、視神経炎で「ラケット状暗点」という特徴的な所見も生じます。
視野検査は眼科検査の中でも最も重要な検査の一つです。時間もかかり、前だけを見続けてスイッチを押すという大変疲れる検査ですが、その大切さをご理解いただき、検査の際にはご協力ください。