眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e194

投稿日 2024年7月2日

眼の健診(眼底検査)

院長 廣辻徳彦

マンスリーで眼の健診も大事であると書きましたが、日本の眼科医で組織している「日本眼科医会」という会も「眼科健診」の重要性を説いています。少し前までバカボンのパパが「40歳過ぎたら、眼底検査を受けるのだ」、と言っているテレビCMをAC JAPANの枠で見たことがある方がいらっしゃると思います。視力検査だけではわからない緑内障などの病気を見つけるために、眼底検査を受けてくださいというものです。身体はどこが悪くなっても困るので、どこが一番ということはありません。ただ、生活や仕事をする上で、情報の8-9割は目を通して得ています。順番をつけることはできませんが、何をするにも「視覚は大事」であると言えます。
これからの図は日本眼科医会作成のものから引用しますが、コロナ感染を除いた全産業における4日以上の休業を要した死傷者数の原因となった労働災害(令和4年度)の中で、転倒が4分の1を占めています。転倒する原因が全て視力低下かというとそんなことはありませんが、同じ病室、ベッドの入院している人を対象に調査すると、「杖や歩行器を使用している」、「(過去に)転倒歴がある」人よりも、視力低下している人の方がより転倒リスクが高く、オッズが10倍以上という結果が出ました。他にも、運動をするだけで転倒リスクが下がることがわかったのですが、それに加えて眼の治療をした場合には大幅にリスクが下がることも確認されました。視力は視覚の中で大切な指標ですが、「視野」という見える範囲も重要です。中心部がよく見えても周りが見えないと、横から来る人とぶつかったり、段差がわかりにくくなってつまずいたりしてしまうことが起こりやすくなります。特に、高齢になって転倒してしまうと、少しの間安静にしているだけでその後の運動機能の衰えにつながり、飲食ができにくくなることや肺炎を起こしやすくなるなど、最悪死亡原因になってしまうことさえあります。視力検査は大事ですが、それ以外に視野などに影響が出る病気の早期発見は同じように大事なことだと言えます。

視覚障害の原因となる疾患は、2019年の統計では約4割が緑内障でした。次に網膜色素変性症、糖尿病網膜症、黄斑変性症などと続き、実に8割以上が眼底に起こる病気になっています。約20年前までは糖尿病網膜症による視力障害が第2位でした。現在も糖尿病に罹患している人の数は少なくないのですが、健診などで早期発見されることも多くなり、治療に取り組む人が増えて重症の糖尿病網膜症の人が減ってきたことで、視力を失う人が少なくなってきています。また、白内障も視力低下を引き起こしますが、現在は見えなくなるまで放置する人がほとんどいないので日本では順位に入らなくなっています(発展途上国ではまだ上位です)。

網膜色素変性症など効果的な治療がない病気もありますが、眼底の病気を早期に見つけられれば、視覚障害に悩む人の数を減らすことにつながります。眼底検査で黄斑変性症の予備軍がわかりますし、視神経乳頭を観察すれば緑内障を見つけられます。網膜の血管は身体を傷つけずに見ることのできる唯一の血管なので、動脈硬化の判定に役立ちます。このように、眼底検査を健診の機会に行うことは意義のあるなのです。健診の項目が増えれば費用の負担も増えるので、その意味から難色を示している経済団体もあると聞きますが、健康が保たれれば治療や介護に要する費用も少なくなります。眼底検査が健診の項目に入ればいいと思いますし、オプションでも追加できるようになればいいかと考えます。