眼窩内腫瘍(がんかないしゅよう)
院長 廣辻徳彦
今回のテーマは「眼窩内腫瘍」、眼球が収まっている眼窩(=頭蓋骨で眼のくぼんでいるところ:下図の矢印のところ)の中にできる腫瘍のご紹介です。「腫瘍(しゅよう)」という言葉を聞くと、ガンのことかと不安を感じる方が多いかもしれませんが、腫瘍とは必ずしも悪いものだけを指すわけではありません。腫瘍とは身体の組織が増えすぎてできる“できもの”の総称であり、悪性というだけではなく良性のことも多いのです。聞き覚えのない病気かもしれませんが、視力や見え方に影響しやすい病気です。眼窩は眼球を守り、支えているスペースで、電球を眼球に例えれば「ランプシェード」という感じの場所です。眼窩内には眼球そのもの以外に、眼球を動かす筋肉(外眼筋)、視神経や動眼神経、三叉神経などの脳神経、血管、脂肪組織など、物を見るために欠かせない大切な組織や眼を守る組織がたくさん詰まっています。そのスペースは限られているので、ここに腫瘍ができてしまうと元々の組織を圧迫してさまざまな症状が出ることになります。

眼窩内腫瘍の種類や大きさ、できた場所によって出てくる症状は異なります。症状はゆっくり進行するものも多く、初期には放置されがちですが早期に対処するほど視機能を守れる可能性が高まります。「眼球突出」という片側の眼が前に飛び出してくる症状があり、この場合は正面ややや上の方から顔を見たときの左右差が発見のヒントになることがあります。眼の動きが制限されることにより、物が二重に見えてしまう「複視」という症状もあります。視神経が圧迫されてしまうと「視力低下・視野欠損」が起こります。眼瞼(まぶた)にかかわる神経や筋肉に影響が起こると「眼瞼の腫れ」や「眼瞼下垂」などが起こります。他にも眼の周囲の痛みや違和感、腫れを感じることもあり、複視や眼球突出などの自覚症状が出れば眼科を受診することになりますが、自覚症状がなくても内科のクリニックなどで指摘され、眼科を受診されることもあります。眼科では視力や眼球の動き、視野などをチェックします。さらに、クリニックではできないことも多いのですが、病院でCTやMRT、超音波検査などの画像検査、必要に応じて腫瘍の組織を一部採取する生体検査(生検)を行なって良性か悪性か、どのような組織なのかを検索していきます。
眼窩内腫瘍には、良性のものから悪性のものまで様々な種類があります。
・悪性リンパ腫:白血球の一種である「リンパ球」がガン化する病気で、中高年に多いとされています。まぶたが腫れる・白眼がむくんでしまうといった症状から気づくこともあります。放射線治療や薬物治療が奏功しやすいため、早期発見が重要です。
・海綿状血管腫:正確には腫瘍というより毛細血管の集合体である「血管奇形」とされているものです。良性で成人の眼窩腫瘍の中で多く見られるタイプです。血管が増えてできるもので、ゆっくり進行することが多いとされています。視神経を圧迫して視力へ影響が出る場合は手術で摘出します。
・視神経膠腫(こうしゅ)・視神経鞘腫:視神経そのものにできる腫瘍です。視神経膠腫は毛様細胞性星細胞腫が主体の低悪性度の腫瘍の1つに分類されます。10歳以下の子どもに多いため、見え方の変化に注意が必要です。視神経鞘腫は視神経を包んでいる鞘の部分である髄膜から発生する腫瘍(髄膜腫)で、ほとんどは良性でゆっくりと進行します。
・涙腺腫瘍:涙腺という涙を作る組織の腫瘍です。涙腺は眼窩内で眼球の外上方、眉毛の耳側の奥の部分に位置しています。視力そのものへの影響は少なく、眼瞼の腫れや眼瞼下垂、複視などを自覚します。良性の場合も悪性の場合もあり、良性でも大きくなる場合には手術治療が用いられます。
・横紋筋肉腫:小児の眼科腫瘍の中でも最も多い悪性腫瘍で、多くは10歳以下で発症します。横紋筋という筋肉組織から発生しますが、眼窩内は発生頻度が高い部位とされています。進行が速いですが、化学療法と放射線治療の進歩により早期治療で予後が大きく改善しています。
・転移性腫瘍:他の臓器のガンが眼窩に転移してくる場合で、何らかのガン治療をしている途中で症状が出た場合に疑われます。
眼窩内腫瘍の治療は、腫瘍の種類(悪性や良性、発生した組織)や部位、年齢、その大きさなどを考慮して行いますが、大きく分ければ、1.手術療法、2.放射線治療、3.抗ガン剤や分子標的薬などの薬物療法、4.定期的な経過観察、という4つに分類されます。良性で小さい場合、症状のない場合は4.の「経過を見ながら必要なときに治療へ」という方針になることもあります。治療には眼科だけでなく、腫瘍内科、放射線科、小児科、脳神経外科などの連携が欠かせません。眼窩内腫瘍は日常臨床で比較的少ない疾患で、クリニックで1年のうち何人も見つかるわけではありません。ただ、「まぶたが腫れぼったい」などのちょっとした違和感から見つかることもあります。眼の奥の部分の変化なので自分では気付きにくいものですが、何か異常を感じた場合にはご相談ください。





