視野検査について(その1)
院長 廣辻徳彦
どの科でも当てはまることですが、眼科では視力や眼圧、眼底などの検査や様々な手術でたくさんの種類の器械を使います。いわゆる「検査漬け」になってはいけないのですが、新しい器械を使えば昔より容易に診断がつけられることも珍しくありませんし、その検査で初めて見つかったり原因が解明されたりする病気もあります。
今回は「視野」について書いてみます。「視野」とは「眼を動かさずに見えている範囲」のことです。右眼、左眼それぞれに視野があり、人の場合は両眼とも顔の前面についているので両方の眼で同時に見えているところ(左右の視野が重なっているところ)は立体的に物を見ることができます。例えば右眼であれば、まっすぐ前を見ているときの角度を0度とすれば、耳側はほぼ90度まで、下側はほぼ70度、上側と鼻側はほぼ60度の範囲まで見えます。中心部分ほど敏感な感度を持っています。人では後ろ側はまったく見えませんが、魚は顔の両側に眼がついているのでかなり後ろ側まで見ることができます。視覚の中で、視野は視力や眼圧などと並んで大切な機能です。視野の状態を測定する「視野検査」は、数多い眼科検査の中でも最重要な検査の一つです。
視野検査では何を測定するのかといえば、先に書いたように「眼を動かさずに見えている範囲」を測定するということなのですが、厳密には「視覚の感度分布」を測定することを言います。何やらむつかしそうに聞こえますが、人が明るいものほど見やすく暗いものほど見にくいことは自明の理です。そこで、一定の明るさの指標を感じることができる範囲を測定し、繰り返して明るさを変えていくつかの指標で感度測定を行えば視野が測定できます。もしくは一定の場所で指標の明るさを変えて測定して、場所を変えてそれぞれの場所で測定した感度を図に表すことでも視野を表すことができます。一定の指標を動かして測定する方法が「動的視野検査」、一定の場所で明るさを変えて測定する方法を「静的視野検査」と言います。
左の図は右眼の視感度(=視覚の感度)を模式的にあらわした図です。
山の頂上に当たるところが網膜中心部(黄斑部)で、最も感度がよいところです。向かって右側の幅広くゆるやかな斜面の部分が耳側、向かって左側の急な斜面の部分が鼻側の感度です。この図はその形から、「視野の島」と呼ばれています。「視野の島」を山に見立てれば、その高さを測って地図に直せば、それが視野検査の結果として図になる訳です。
動的視野検査では、一定の明るさの指標を動かして視覚の感度を測定します。同じ感度の点をつなげば地図でいうところの等高線に相当する線となるので、等高線で描かれた地図のイメージが動的視野検査の結果として表されます。この等高線に当たる線を、同じ視感度の線=等感度線と呼びます。下図左に右眼の動的視野を占めします。少し見えにくいのですが、矢印のついている5本の線が等感度線で、中心に近いほど感度が高くなります。動的視野検査では、人が見ることのできるほぼすべての範囲の視野を計測できます。
これに対し、静的視野検査では指標を動かすことはありません。一定の場所を決めておき、それぞれの場所の感度を測定します。動的視野検査の中心部を拡大した結果に当てはめてみると(上図中)、図に重ねて示す赤点の部分の感度を測定することになります。得られた結果を、感度の良いところを白く、感度の悪かったところを黒く表示し、測定点のすき間に当たるところは平均値で置き換えると上図右のような図で静的視野が表されます。静的視野は細かな感度分布がわかるのですが、検査にやや時間がかかります。そのため動的視野に比べて狭い範囲、中心約30度部分以内の視野を詳しく測定するのに向いています。(紙面がつきましたので、次号に続きます。)