眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e209

投稿日 2025年10月1日

ぶどう膜炎について(その1)

院長 廣辻徳彦

これまでにも虹彩炎やぶどう膜炎という病気を書いたことはありましたが、まとめて紹介したことはなかったようです。今回は「ぶどう膜炎」という病気をご紹介します。ぶどう膜という名前は網膜や角膜ほど知られていないかもしれませんが、網膜、強膜と共に眼球を構成している膜で、下図に示すように眼球は外側から強膜、ぶどう膜、網膜という三層構造をしています。色素や血管が多く含まれていて、カメラの構造に似た眼球の中で外からの光を遮断する役目も持っています(昔のフィルムカメラの内部が真っ黒だったのと同じです)。大きさも色もブドウに似ているのでぶどう膜という名前がついています。また、ぶどう膜は虹彩、毛様体、脈絡膜という三つの組織から構成されていて、虹彩は瞳孔(ひとみ)の大きさを調整し、毛様体は水晶体の厚さを変えてピントを調節し、脈絡膜は網膜に栄養を届ける働きをしています。

これらの組織に炎症が起きた状態を「ぶどう膜炎」と言い、全体でなく部分的に起こっている場合には「虹彩炎」、「毛様体炎」、「脈絡膜炎」と呼ぶこともあります。
図の球体の外側で黒色は「角膜と強膜」、茶色はぶどう膜炎、水色は「網膜」(右に伸びる水色部分は視神経)。
茶色の部分(ぶどう膜)の矢印の部分が「虹彩」、丸印で囲まれた部分が「毛様体」、それ以外の茶色の部分が「脈絡膜」にあたるところ。
ぶどう膜炎とは、何らかの原因で虹彩、毛様体、脈絡膜のぶどう膜に炎症が起こる疾患です。小児から高齢者までの全ての年齢層で生じる可能性があり、他の眼組織と比べて血管が多いため、炎症が起こると網膜などぶどう膜に隣り合わせている眼組織にも影響を及ぼすことがあります。
症状は様々ですが、炎症の程度が強い場合や長期間炎症が続いた場合、重症の場合には視力が回復しないこともありますし、いろいろな合併症により失明してしまうことすらあるので油断ができません。ぶどう膜炎の主な自覚症状は、充血(目が赤い)、目が痛い、まぶしい、視力が落ちる、霧がかったように見える、ゆがんで見えるというものです。結膜炎のように充血はしますが、眼脂(メヤニ)が多くないのも特徴です。これらの症状からぶどう膜炎を疑う場合、どの部分に異常が起きているか調べるために、視力や眼圧検査、眼の奥の眼底までを含む眼球全体一般検査を行い、必要であれば眼底の血管造影検査も行います。ぶどう膜炎は全身の病気が原因のこともあるので、全身の炎症や免疫の状態を調べるために血液検査や胸部X線検査、CT検査、MRI検査などを行う場合もありますし、他にも眼球の中の栄養分である房水を採取して検査したり、脊髄の髄液検査といった特殊な検査が必要となったりする場合があります。 全身の病気を伴う可能性があるときは、他の診療科との連携を行います。
ぶどう膜炎の原因はさまざまですが、免疫異常が主な原因となる「非感染性ぶどう膜炎」と、病原菌やウイルスの感染が原因となる「感染性ぶどう膜炎」とに大別されます。「非感染性ぶどう膜炎」の中では、サルコイドーシス、原田病(フォークト・小柳・原田病)、ベーチェット病という病気が多く(これらは3大ぶどう膜炎とも呼ばれます)、膠原病である関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患が原因になることが知られています。他にも炎症性腸疾患や脊椎関節症などが原因となる場合もあり、身体を守るための免疫系が誤ってぶどう膜の組織を攻撃して炎症が起こるとされています。ただ、非感染性ぶどう膜炎の3分の1程度は原因がわからないとされていて、原因不明のまま治療を継続することもあります。ぶどう膜炎の発症がきっかけになって全身の病気が見つかることもあります。「感染性ぶどう膜炎」では、単純ヘルペス、水痘・帯状疱疹ヘルペス、サイトメガロウイルスというヘルペス属のウイルスが原因のことが多く、その他には細菌、真菌や結核菌の感染も原因となります。ウイルスや真菌の感染性ぶどう膜炎は、他の病気で身体の免疫が弱まっている時に起こる「日和見感染」という形で現れる場合もあります。ヘルペスウイルスが原因となる「急性網膜壊死(Acute Retinal Necrosis: ARN)」という病気では、初期には一般的なぶどう膜炎の症状なのですが、網膜に障害が起こり、急速に網膜剥離、視神経萎縮、網膜血管閉塞から視力低下が進行してしまうことがあります。
非感染性ぶどう膜炎の場合は、免疫の働きを抑制し炎症を抑えることが治療の中心となり、感染性の場合には病原体に対しての抗ウイルス薬、抗菌薬の治療が主体となりますが、紙面が尽きたので次回に続くこととします。