眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e169

投稿日 2022年6月6日

寄生虫による眼の病気

院長 廣辻徳彦

東京の目黒に「目黒寄生虫館」という博物館があります。一戸建の建物ではなく、目黒駅から徒歩圏内のそれほど大きくはないビルの1階と2階にあって、入館料も無料の博物館です。展示面積もそれほど大きくない博物館なのですが、おそらくその寄生虫の資料は国内有数のものだと思います。元はと言えば目黒で内科小児科を開業していた亀谷了(かめがいさとる)先生が、私財を投じて設立した私立の博物館とのことです(現在は公益財団法人)。多くの標本や詳細なスケッチの資料がありますが、その中に「河川盲目症」という病気の紹介がありました。2014年に「動物に由来する感染症」という記事を書きましたが、今回は寄生虫に関する眼の病気を考えてみます。寄生虫といえば回虫や蟯虫(ぎょうちゅう)、条虫(サナダ虫)などが有名です。一般的には体表外部に寄生するものではなく、内部に寄生する動物のことを寄生虫と呼び、寄生虫に寄生される生物を宿主と言いますが、寄生虫そのものの説明が目的ではないのでこのくらいにして、眼に関係する寄生虫を以下に挙げます。
最初は上に書いた河川盲目症です。オンコセルカ症とも言われ回旋糸状虫(Onchocerca volvulus:図1)によるフィラリア感染症の一種です。急流の河川に生息するブユ(図2)という虫に刺されることで感染し、体内で成長した雌から生まれるミクロフィラリアという幼体が皮膚や眼に移行して病気を起こします。眼では角膜炎や虹彩炎、ぶどう膜炎、視神経炎などを引き起こし、失明に至ることがあります。日本ではみられませんが、主にアフリカ大陸で発生していて、世界においては失明原因の中で少なくない割合を占めています。失明した大人の手を引く子供の像(図3)が象徴的に描かれることがあります。イベルメクチンやドキシサイクリンという薬剤が著効するのですが、地域の経済事情ものせいで薬剤費が問題となり寄付などでまかなわれているのが現状だそうです。ちなみにこのイベルメクチンという薬は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生が開発に関わっています。

回虫も眼に病気を引き起こします。回虫は糞便の中に虫卵があるので、肥料として使われていた昔は野菜などから感染していた事例が多くありました。川の水を飲んだり、土を触った手を洗わずに口に入れたりなど様々な経路で感染していたようです。最近は衛生環境が良くなり、糞便をそのまま肥料として使うことが少なくなって代わりに化学肥料が使われているので、日本での保有率は下がっています。回虫は体内では消化管内で成長するのですが、それ以外に移動することもあり、内蔵移行型では肝臓や肺、脳に移行して症状を起こし、眼移行型ではぶどう膜炎などの炎症や、網膜剥離などを生じてしまうことがあります。犬回虫や猫回虫も人畜共通感染症として注意が必要です。犬回虫や猫回虫は人の消化管内で育つことができないので、内臓や眼に移行して眼ではぶどう膜炎などを引き起こします。こういった病態を臓器幼虫移行症(トキソカラ症)と呼んでいます。
条虫には、有鉤条虫(豚に寄生)、無鉤条虫(牛に寄生)、日本海裂頭条虫(サケ、マスなどに寄生)、広節裂頭条虫(欧州や北米の淡水魚に寄生)などがあります。いずれも加熱処理が不十分な状態で食べて寄生されます。このうち有鉤条虫の幼体が寄生する病気を有鉤嚢虫症といい、これが眼に病気を引き起こすことがあります。有鉤条虫が体内で虫卵を放出してしまい寄生患者の体内で幼体が嚢虫に発育する場合や、患者が排泄した虫卵で汚染された食物などを口にして他人が感染する場合があります。脳内に寄生すると意識障害やけいれん、四肢麻痺や視覚障害が引き起こされることがあるようです。
他にも眼にはあまり症状が出ないもののアニサキスなど厄介な寄生虫もいます。手洗いを励行し、食事については十分な加熱を心がけ、ペットの犬や猫の寄生虫予防にも努めるのが良いかと思います。(今回、図1と図2はEisai社のHPから、図3は北里大学大村研究所のHPから引用させていただきました。)