子供の外斜視について
院長 廣辻徳彦
毎年4月から6月にかけて学校健診が行われます。健診の結果、視力低下を指摘された生徒さんがこの時期に来院されます。視力以外では、結膜炎(特にアレルギー性結膜炎)や斜視(斜位)を指摘されることが多いようです。これまでも斜視などの記事をいくつか書いてきましたが、今回は斜視の中でも学校で指摘され、比較的割合の多い子供の「外斜視」にスポットを当ててみたいと思います。
眼の位置を表す用語に「眼位:がんい」という言葉があります。眼位とは両眼の相対的な位置関係を示す表現です。頭をまっすぐにして正面を向いた時(第一眼位と言います)に、正常では両眼ともに視線がまっすぐ向いていて、この状態を「正位」と言います。斜視というのは、ものを見るときに左右どちらかの眼位がずれている状態のことを言い、水平方向で内側にずれていれば内斜視、外側にずれていれば外斜視、上下のどちらかにずれていれば上斜視(下斜視)、回転するようにずれる場合を回旋斜視と言います。
外斜視の中で、常にどちらかの眼が外側に向いている場合を「恒常性外斜視」、外斜視になっている時もあれば正常の眼位になっていることもある場合を「間欠性外斜視」と言います。間欠とは「一定の時間をおいて物事が起こったり止んだりすること:ときどき」という意味です。また、普段は全く眼位のずれがなく、検査などで片方の眼が隠された時だけその眼が外側に向いてしまう状態を「外斜位」と言います。よく外側に向いている方の眼が悪いと考える親御さんがいらっしゃいます。明らかな神経麻痺や外傷の後遺症の場合は別ですが、多くの場合は両眼の動きをコントロールする中枢部分に原因があるので、どちらの眼が悪いということはありません。
恒常性外斜視は常にどちらかの眼が外に向いています。生後まもなくから出現することもありますし、間欠性外斜視から移行する場合もあります。片方ずつ正面を向いていれば視力が育ちますが、後術する両眼視機能は発育しないので立体的にものが見られません。また、常に同じ眼が外を向いている場合は、その眼の視力が発達せず弱視になってしまうことがあります。間欠性外斜視は普段は無意識の努力で眼位を正位に保っていますが、ぼんやりしている時や疲れた時、起床時などに外斜視の状態になります。近見時には普段より内側に眼を向ける力が必要なので、疲れやすく感じる傾向があり、両眼視機能が十分に発育しないこともあります。間欠性外斜視の子供さんが近視になって眼鏡をかけないでいると、ぼやけて見えているので外斜視の状態になりやすいこともあります。また、斜視には機能的な面だけでなく整容的な問題があることもしばしばです。
私たちは両眼で同時に見て立体的にものを見ることができ、これを「両眼視機能」といいます。いわゆる3Dを感じられる力で、両眼で同時にものを見る(同時視)、両眼で見た像を一つに合わせる(融像:ゆうぞう)、遠近感や立体感を感じる(立体視)という3つの力から成り立っています。この力は生後2、3ヶ月ごろから発達し、5、6歳でほぼ完成します。両方の眼で一つのものを見る力(=両眼視機能)を得てくると、もし左右の眼が違う方向に向いてしまうと物が二つに見える「複視」という症状が起こります。複視が続くとその状態では脳が混乱するので、その状態に適応してずれた眼から入ってくる情報を脳が消去してしまう「抑制」という現象が起こります。抑制がかかると「複視」は自覚しなくなりますが、視機能の発育にとってはマイナスな面もあるのです。
斜視の検査には遮蔽試験を行います。視標を見せながら、片眼ずつ手のひらか遮蔽板で隠したり開けたりして眼の動きを観察します。外斜視の場合は隠された眼が外に向き、開放されると中央に戻ります。ずれの程度を調べるにはプリズムという道具を使って遮蔽試験を行います。立体視はチトマスステレオテストという3D絵本のような表を用いて検査します。両眼視機能やもっと詳しいずれの角度の検査には大型弱視鏡という器械を用います。
斜視の治療は、間欠外斜視の場合、眼位ずれの程度が軽ければ視機能訓練やプリズム眼鏡で対処します。外斜位の場合も眼精疲労があればプリズム眼鏡は良い適応になる場合があります。程度が強い場合や恒常性外斜視の場合は、手術による治療が行われ、眼球に付着する内直筋や外直筋の長さや付着部を調整します。斜視手術の場合は少なからず「戻り」があることが多く、手術後も経過観察は必要です。
学校健診ではすべての斜視の生徒さんを指摘するのではなく、気になった生徒さんをピックアップしているのですが、医師によって判断がばらつくこともあります。小さい頃から分かっていたりすでに受診していたりする場合は問題ありませんが、初めて学校から連絡を受けるような場合、一度は眼科を受診してみてください。