花粉症対策–マスクを正しく使う
院長 廣辻徳彦
毎年のことですが、今年も花粉症の季節がやってきます。正確な統計ではありませんが、現在日本人の約3−4割に花粉症があるといわれています。マンスリーでも何年かに一度花粉症についての記事を書いています(過去記事:マンスリーNo. 38、39、57、106)が、今回は花粉症の症状を抑える対策として有効な薬やマスクの使用法などに焦点を当ててみます。折しも中国のコロナウィルス肺炎のせいでマスクが品薄になっている現状ですが、せっかくマスクを使うのであればできるだけ効果的に使用したいものです。
植物の花粉によって「くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ」、などを生じる症候群が花粉症です。人の体には異物の侵入を防ぐという働きがあります。初めてスギ、ヒノキ、ブタクサ、イネ科などの花粉が体内に侵入した時に、花粉に含まれる抗原がマクロファージという細胞に取り込まれ、その情報をもとにリンパ球のB細胞が抗体(特にIgE抗体)を作り、IgE抗体が肥満細胞という細胞の表面に結合する反応が起こります。次に花粉の侵入があった際に、IgE抗体が抗原に反応し、肥満細胞からヒスタミン、ロイコトリエン(これらをケミカルメディエーターと言います)という物質が放出され、鼻水、くしゃみ、流涙などを引き起こして抗原(花粉)の排除に働くという仕組みです。花粉という異物を排除するこの反応自体は正常なものですが、反応が過剰に起こりすぎて調整がきかなくなっているのが花粉症です。一度過剰反応を起こすと次もまた同じように反応してしまうので、花粉症の人は毎年同じようにくしゃみや鼻水、目のかゆみに苦しめられてしまいます。
薬でこの過剰(=アレルギー)反応を抑えるために使われる薬には①抗ヒスタミン薬、②抗アレルギー薬、③ステロイド薬があります(他にロイコトリエン受容体拮抗薬、トロンボキサンA2阻害薬、Th2サイトカイン阻害薬、漢方薬など)。①の抗ヒスタミン薬はヒスタミンの作用を妨げる薬です。ヒスタミンの受容体H1、H2、H3のうち、アレルギーに関するH1受容体に働いて症状を抑えます。効き目が早い反面、古い世代の薬はH1受容体以外にも効いてしまい眠気や口渇などの副作用も多い欠点がありました。②の抗アレルギー薬はケミカルメディエーターを遊離する肥満細胞などの働きを抑える働きをします。効き目が出てくるのはゆっくりですが、鼻づまりなどによく効くと言われています。抗アレルギー薬の中にはH1受容体に働く効果を持っている薬もあります。③のステロイド薬は抗免疫作用や抗炎症作用があるのでアレルギーそのものを抑制し、さらにアレルギーで生じる炎症反応も抑える効果があります。毎年花粉症で苦しめられるのであれば、2週間ぐらい前から抗アレルギー薬を使用しておくのがよいでしょう。即効性は少ないのですが、使用しておくといざ花粉が飛び出した時にその症状のピークを抑えてくれます。飲み続けることで効果も持続します。症状に応じて、その他の抗ヒスタミン薬やステロイド薬などを組み合わせるのが一般的です。点眼薬や点鼻薬も、季節の始まる前からの使用が望ましいと思います。
花粉対策には、花粉が付着しにくい繊維の服を身につけるほか、鼻や目からの侵入を防ぐことも必要です。伊達眼鏡でも花粉の飛入量を半分以下に減らしてくれますが、ゴーグルタイプ(下図)であればより効果的です。花粉の大きさは約20−40μmと大きいので、マスクに花粉症対策と書いてあれば事足ります。もちろん、口と鼻を全部覆うように使用してください(下図左は鼻が隠れていない、中央は鼻と頰の間と口の横に隙間がある、共によくない使い方、右は鼻のところの針金を曲げて口の横の隙間も少ない正しい使い方)。ウィルス対策では、マスク着用より手洗いがはるかに重要です。患者さんがいる可能性の高い病院内や、家族に患者がいて看病する場合のマスク着用にはある程度意味がありますが、「何となく安心するために」マスクを使用することはないと思われます。せっかくのマスクも一度外したものを再使用したり、布製のマスクを使ったりではかえって汚染源になるので、それなら使用しないほうがましなぐらいです。花粉もウィルスも目に見えないものなのでそれから逃げることはできませんが、花粉症は対策をとれば症状を軽減できます。侵入を防いで早めの薬の使用を考えてください。