眼の外傷について
院長 廣辻徳彦
自分が膝をケガしたということもあり、久しぶりに眼の外傷について書いてみます。今回は転倒や打撲、衝突、墜落などに起因する「鈍的外傷」といって、こけたり振り向いたりしたときに何かにぶつかる場合や、木材やこぶし、ボールなどにぶつかってというケガについてです。刃物で切ったり、何かが刺さったりというものとは違う種類です。ケガは眼球だけでなく眼球周囲の眼瞼(まぶた)、眉毛部、頬部のどこにでも起こります。
眼球周囲の鈍的外傷では、皮膚の挫創(擦りむいたり切れたりしている状態)で出血することがあります。顔面の皮膚には血管が多いので、場合によっては小さな傷からでも多く出血します。皮膚に傷がなく(挫傷)ても皮下出血で大きく腫れることもあり、額や眉毛部の出血量が多いとぶつかっていないはずの眼瞼周囲にまで皮下出血が広がることもあります。衝撃が強い場合は脳の検査が必要ですし、眉毛部周囲の打撲では稀に眼球の奥にある視神経菅というところが骨折して視力低下が引き起こされることもあります。
転倒した際に平らな地面にぶつかった場合には額や頬、鼻の高さより眼球が少しくぼんでいるので、意外に問題ないこともありますが、机や柱の角、ボール、こぶしなどが当たれば、眼球自体に障害が起こります。直接何かに接触すれば角膜や結膜には擦過創(すり傷)が起こります。ゴルフボールによる打撲など、ちょうど眼球のみに衝撃が加わるような程度の強い打撲の場合は、角膜や強膜が裂けて裂創ができることもあります。この場合は縫合手術が必要ですが、刃物での切創に比べると傷が不整なので難しい傾向になります。
眼球内にも血管があるので打撲があればどの部分でも出血する可能性があります。眼球の前半分では虹彩根部(瞳孔が虹彩の内側で、一番外側の強膜に接しているところ)からの出血が多い傾向です。これを「前房出血」と言いますが、出血量に比例して視力低下の程度も強くなり、中には眼圧が上昇することがあります。多くの場合は安静を保ちながら自然吸収を待って良いとされています。しかし、出血が多く眼底などの状態が評価できなかったり、眼圧が高い場合は角膜血染症(角膜に色がついてしまう状態)になったりすることもあるので、前房洗浄という処置(手術)を行なって出血を取り除く場合もあります。虹彩根部が断裂してしまう場合もあります(図1)。打撲による力は眼球の前だけではなく後半部分にも影響があり、網膜にも浮腫(むくみ)や出血が起こることがあります(図2:外傷による網膜出血)。網膜の浮腫は「網膜振盪症」と言い、打撲に伴って比較的多くみられます。網膜の中心部分に出ると少し見えにくい症状がありますが、周辺部分の場合には無症状のことが多く、ほとんどがそのまま治癒します。ただ、出血を伴うこともあり、その中でも特に程度の強い場合に最終的に網膜の壊死が生じて網膜剥離を引き起こすこともあります。打撲そのものによる力で網膜に裂け目(網膜裂孔)ができて、網膜剥離が起こることもあります。裂孔から出血して眼球内に「硝子体出血」が起こると網膜の状態が観察できにくくなって発見されにくいこともありますが、発見できた時点で手術などの治療が必要になります。
出血以外にも、水晶体が繋がれている毛様小帯というハンモックの糸のような部分に断裂が起こって、「水晶体(亜)脱臼」が起こることがあります(図3:水晶体亜脱臼)。少しのずれであれば自覚症状が少ないのですが、程度が強いと視力低下が起こるので眼内レンズに置換する手術が必要です。眼球へ圧力がかかって眼窩(眼球が入っている頭蓋骨の窪んでいるところ)内の圧が上がると、眼窩で骨折が起こって結果的に圧を逃して眼球を守るように働くことがあります(図4:眼窩底骨折の圧の逃げ方。ボールによる圧を下方の骨折で逃している。:日本形成外科学会HPより引用)。これを「眼窩底骨折」と言いますが、骨折部に眼球を動かす筋肉が引っかかって「複視」が出ることがある場合には手術が必要になります。いずれにしても、ケガは避けたいものではあります。