オルソケラトロジーについて
院長 廣辻徳彦
最近、オルソケラトロジーという治療について質問を受けることがありました。聞いたことがない人も多いと思いますが、オルソケラトロジーとは、寝ている間に特殊なハードコンタクトレンズを装用して角膜前面を平坦化させ、屈折矯正効果を引き出して近視を矯正しようという方法です。一般的のハードコンタクトレンズは「視力補正用」で、起床してから装用し近視や乱視などの屈折異常を矯正して夜間は外します。オルソケラトロジーに用いられるハードレンズは「角膜矯正用」で、下図のように角膜に接する内面の構造に特徴があり、夜間に装用して角膜を圧迫することでその形状を変え、近視や乱視を矯正します。起床後に外し、圧迫された角膜の形状が保たれている日中は裸眼で良好な視力が保たれるという理屈です。「コンタクトレンズは就寝中には外すものである」とされていることからするととんでもないことのようにも思えますし、細菌感染やアレルギーのリスクも考えなければいけません。しかし、酸素透過性が高く形状も合併症が少ないようなデザインに工夫されているので、十分な管理のもとに行われれば一般のコンタクトレンズと同じように安全であると考えて大丈夫と言われています。
レンズ内面の中央部の青色の部分は「ベースカーブ」と言って、目標矯正値に合わせて角膜前面を押さえ平坦化させる部分です。その外側の外周のオレンジ色は「リバースカーブ」と言い、角膜上皮細胞を再分配させるための部位です。レンズを角膜の適切な位置にフィットさせます。
さらに外側の緑色は「アライメントカーブ」と言って、レンズが中央で安定するように働き、十分な屈折矯正効果を得る役割を果たします。最周辺部の黄色のところは「ペリフェラルカーブ」で、涙液交換を促進し、レンズがスムーズに取り外せるような形をしています。(今回の図などはメニコンのHPから引用させていただきました。)
オルソケラトロジーは軽〜中等度の近視、激しい動きが必要なスポーツをしている、日中コンタクトレンズや眼鏡を使いたくない方など適応となります。効果には個人差がありますが日中は裸眼で過ごすことができ、中止すれば2週間から1ヶ月程度で元の角膜形状に戻ります。1日6時間程度の装用が必要で、病気などで眼の状態が悪い時には、それが治るまで使用を中止するのは通常のコンタクトレンズと同じです。
日本眼科学会のガイドラインでは、オルソケラトロジーについて以下のことを示しています。抜粋すると、年齢は、患者本人の十分な判断と同意を求めることが可能で親権者の関与を必要としないという趣旨から、20 歳以上を原則とし20 歳未満は慎重処方とする。対象は屈折値が安定している近視、乱視の屈折異常で、①近視度数は、−4.00Dまで、乱視度数は−1.50 D 以下とする。②角膜中心屈折力が 39Dから48Dまで。③治療後の屈折度は過矯正にならないことを目標とする。また、使用対象となるのは眼疾患を有していない健常眼で、明らかなドライアイや角膜内皮細胞密度が減少していない眼であること、というものです。夜間に装用することと、角膜に圧着される構造で瞬きによる動きがないため、通常のハードコンタクトレンズよりも汚れやすい傾向があり感染には気をつけなければならないので、自分で管理できることを前提とした年齢が対象になっています。
オルソケラトロジーは通常のコンタクトレンズと同じ矯正の一手段とも言えますが、大きなメリットとして「近視の進行を抑制する」可能性があるという報告が多く出ています。近年、デジタルデバイスの普及などが原因なのか近視の人の割合が増加傾向にあると言われていて、学校でも低学年から近視化している児童が多くなっている印象です。近視の進行は網膜剥離や緑内障のリスクファクターになるので、世界的な問題になりつつあります。ただ、近視が一番進行する年齢は10代前半を中心とした小学校から高校にかけての世代です。オルソケラトロジーで「近視が治ることも進行しなくなるわけでもありません」が、進行抑制の可能性を考えるなら20歳まで待っていては遅いことになります。そこで、慎重に考えなければいけませんが、最近は親御さんが管理を十分に援助するという条件で、低年齢からの使用を勧めるクリニックも増えてきている傾向です。
オルソケラトロジーはすべてが自由診療で健康保険は使用できませんので、費用や保証についてはそれぞれのクリニックに問い合わせが必要です。オルソケラトロジー用のコンタクトレンズはメーカーからの貸与となる形式で、使用中止の場合は返却するシステムです。当院では保険診療しか取り扱っていないので個別のご相談には応じられませんが、オルソケラトロジーについての簡単な紹介をさせていただきました。