眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

(受付)午前8:30〜 午後2:00〜 (休診)土・日・祝祭日・年末年始 ご予約・お問い合わせ0797-72-6586

眼の病気 No.e200

投稿日 2025年1月6日

眼瞼の構造について

院長 廣辻徳彦

毎年機会があれば干支の動物にちなんだ眼の病気について書いてきたのですが、ヘビには眼はあってもまぶた(以後眼瞼:がんけんと書きます)がなく、まばたきもしません。眼瞼の代わりに眼球の表面には透明な鱗があって眼を保護しています。この鱗は乾燥やゴミの侵入を防ぎ、脱皮の際には一緒にはがれます。ヘビの眼は寝ているときを含めていつも開いています。一般的にヘビは視力が弱いのですが、ピット(器官)と呼ばれる温度を感知する赤外線受容器官があり、眼球と合わせてヘビに視覚を与えています。これまでも眼瞼の病気(霰粒種や麦粒種、眼瞼下垂など)については書いてきましたが、今回は眼瞼の構造についての話を書きたいと思います。
眼瞼は眼球を覆う構造をしていて、「目蓋」という字も当てられています(図1)。文字通り目の蓋として開閉が可能で、一番の役割は外界から眼球を保護することです。何かの物体や刺激などに対して、反射的に閉じたり随意に閉じたりして眼球を守ります。瞬きなどで眼球の表面に涙液を行き渡らせて潤いを保ち、眼球表面についたほこりなどを除去する働きもあります。眼に入る光を調節するのは瞳孔(ひとみ)ですが、目を細めることで補助的に光量を調節しています。カメラの絞りを小さくすれば焦点深度が深くなってピントが合いやすいのと同じ理由で、近視や乱視など屈折異常のある人は眼を細めることがあります。眼瞼を大きく見開いて威嚇をしたり、やや細めて睨みつけたりする表現の手段でもあります。ウインクなどもコミュニケーションの手段であり、言語障害や随意運動の機能が障害された重度障害者のコミュニケーションに使わることもあります。恐怖や嫌悪の対象を見ないようにするためや、五感で最も情報量の多い視覚を遮断して思考に集中するために眼を閉じることもあります。
人の眼瞼は上眼瞼と下眼瞼に分かれています。鼻側の目頭と耳側の目尻でつながっていて、表面は皮膚、裏面は結膜で覆われています。皮膚に生えている毛のうち、眼瞼の縁に沿って他の毛より長くなり列を形成したものを睫毛(まつげ)といいます。内部は瞼板というやや硬い組織を芯とするような形で、筋肉や皮下組織を含む構造をしています(図2:オレンジ色の形が不揃いな10個余りの図は眼輪筋の断面)。瞼板の中には涙を乾きにくくする油分を含んだ成分を分泌するマイボーム腺という分泌腺が含まれています。マイボーム腺の開口部は睫毛(まつげ)の少し内側に位置(図3の矢印)していて、上眼瞼で30-40個、下眼瞼で20-30個程度あります。ここに細菌感染が生じると「めばちこ」や「ものもらい」といわれる内麦粒種が起こります。麦粒種でも皮膚側の皮脂腺(ツァイス腺)や汗腺(モル腺)にできたものを外麦粒腫といいます。マイボーム腺に生じる非感染性の慢性肉芽種性のしこりを霰粒種と呼びます。眼を閉じる時には「眼輪筋」という筋肉が働き、眼を開ける時には瞼板に付着している上眼瞼挙筋とミュラー筋という筋肉が働きます。
上まぶたのまつ毛の少し上に溝がある場合を「二重まぶた」、溝がほとんどない場合を「一重まぶた」と呼びますが、複数の遺伝子が関与しているそうです。瞼板に付着している上眼瞼挙筋の筋肉の一部が枝分かれして上眼瞼の皮膚に付着して、開瞼時に皮膚を内側に引っ張り上げてヒダを作ると二重まぶたになるとされています。欧米人ではこの筋肉の付着がしっかりしているため二重まぶたが多く、日本人など東洋系の人種では眼瞼の皮膚が比較的厚く筋肉の枝分かれが少ないので一重まぶたが多いようです(図2は欧米人型でしょうか)。眉毛の下の骨と眼球の境目あたりの窪みを「上眼瞼溝」といいます。FP2受容体作動薬という緑内障の点眼薬でここが深くなってしまうことが報告されていて、上眼瞼溝深化(Deepening of Upper Eyelid Sulcus: DUES)と呼ばれています。
今回、病気の話は少なくなってしまいましたが、身体の部分にはいろいろな構造があるものです。