眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e203

投稿日 2025年4月3日

甲状腺による眼の病気

院長 廣辻徳彦

甲状腺は頚部(首)の前方、のどぼとけの横から下に位置している蝶のような形をした臓器です。甲状腺ホルモンを分泌していて、そのホルモンには身体の新陳代謝を活発にする、心臓や体温、脈拍、自律神経の働きの調節をする、子どもの成長を促すなどの作用があります。通常、この甲状腺ホルモンの分泌のバランスはうまく調節されていますが、甲状腺に異常が出てくるとバランスが乱れていろいろな症状が起こります。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまい新陳代謝が過剰になる病気を「甲状腺機能亢進症」といいます。代表的な病気に「バセドウ病」があります。甲状腺ホルモンの分泌量が減り新陳代謝が低下する病気を甲状腺機能低下症といいます。代表的な病気として「橋本病」があります。甲状腺の病気は女性に多い傾向があり、月経周期の異常や不妊・流産の原因になることもあります。
このような身体への影響のほかに甲状腺に関連して生じる眼疾患があり、それを「甲状腺眼症」と呼んでいます。少し難しい言い回しになりますが、「甲状腺眼症はバセドウ病や稀に橋本病に伴ってみられる眼瞼や涙腺、球後軟部組織の外眼筋や脂肪組織などの眼窩組織に生じる自己免疫性炎症性疾患であり、眼や眼の周囲の痛み、流淚、眼瞼後退、眼瞼腫脹、結膜の充血や浮腫、涙丘の発赤や腫脹、眼球突出、兎眼、複視、視力低下、視野欠損、グラーフェ(Graefe) 徴候(下を見つめたときに上眼瞼の動きが眼球の動きよりも遅れて角膜の上に白目の部分が残る状態のことで、白目が目立つ状態)、眼球運動障害、角膜障害、視神経症、網膜障害などの多彩な眼症候を呈するものである。」と定義されています。眼球の周りにある脂肪や目を動かす筋肉の中に「甲状腺に関係している抗体」が存在していて、甲状腺の病気などに伴ってその抗体が標的となって炎症が生じることでさまざまな病態が引き起こされます。目を動かす筋肉が炎症を起こして太くなり筋肉の動きが悪くなって複視が生じたり、眼窩内の脂肪が炎症を起こして脂肪の体積が増えて目が押されて前に出る眼球突出が生じたりします。眼球突出の程度がひどくなるとまぶたが閉じにくくなり、角膜が乾燥しやすくなって涙が出たり充血したりします。CTやMRIで撮影すれば筋肉の肥大(→)や眼球突出(両矢印)などが診断できます(図は日本眼科学会HPから引用)。  

甲状腺眼症に対しての治療は、もともとの甲状腺の異常に対する治療が第一になります。ただ、甲状腺眼症を憎悪させる3大因子は、ストレス、寝不足、喫煙と言われているので、禁煙と就寝時間を増やしただけでまぶたの腫れや目の奥の痛みが改善することもあります。具体的な治療は炎症が強い時期(活動期)と炎症が落ち着いた時期(非活動期)でやや異なります。活動期で比較的症状が軽い場合には、局所的治療として炎症のあるまぶたなどにステロイド薬の注射を行います。程度が強い時にはステロイドの全身投与(内服や点滴)を行います。放射線療法を併用することもあり、これは眼窩部に放射線を何回かに分けて照射し、直接リンパ球の浸潤を抑える治療方法です。非活動期で目の開き具合に差がある場合にはボツリヌス菌の毒素(ボトックス)の局所注射を行うことがあります。また、外科的に腫れているまぶたの脂肪を切除する手術を行うことや、眼球突出に対して眼窩減圧術(目の周りを囲んでいる骨の一部を削って眼球を引っ込める)という手術、眼球運動障害による斜視に対する手術などを行うことがあります。
昨年から甲状腺癌症に対して新しい薬が使えるようになりました。テプロツムマブ(商品名:テッペーザ)という薬で、成長因子の一つであるIGF-1の働きを抑えます。IGF-1は動物の成長や発達を促す因子ですが甲状腺眼症の症状の発現に関係しているとされ、この働きを抑えることで眼球突出などの症状の改善が期待できます。外来で3週間ごとに8回の点滴治療を行います。聴力障害や糖尿病などに対しての副作用の注意も喚起されています。とても高価な薬剤で1回の治療に使う1瓶あたり979,920円の費用がかかります。スケジュールによって5ヶ月か6ヶ月かの差が出ますが、高額療養費制度を用いてもそれなりの自己負担は免れません。多くの研究の成果で効果の高い新薬が作られていますが、費用も高くなってしまうのがジレンマです。