眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e103

投稿日 2016年12月5日

黄斑上膜と黄斑円孔

院長 廣辻徳彦

前回のマンスリーでは硝子体手術について書きました。そこで記載した「黄斑上膜」という病気は、比較的よく見かける病気の一つです。ですが、過去の記事の中でも、「物がゆがんで見える病気」のところでわずかに紹介しただけでした。今回はこの黄斑上膜と、同じ部位に生じる黄斑円孔について書いてみます。
「黄斑上膜」は、網膜やその中心部に当たる黄斑部にセロファン状の薄い膜が張りついて生じる病気です。この薄い膜は、前々回のマンスリーで書いた「後部硝子体剥離」という40歳代ぐらいから起こる生理的な変化の際に、後部硝子体膜の一部が黄斑部の上に残ったものです。この膜が分厚くなったり縮こまったりすると、網膜や黄斑部にしわを作ったり、浮腫(むくみ)を生じたりして物がゆがんで見えるようになり、程度が強くなると視力も低下してきます(図1、2)。他に、網膜剥離やその手術後、ぶどう膜炎、外傷などでも生じることがあります。
「黄斑円孔」にも後部硝子体剥離という現象が影響します。後部硝子体剥離が起こる時に硝子体膜が網膜に接着している力が強いと、黄斑部のところで硝子体が黄斑部の表面を引っ張って黄斑部の網膜にすき間を作ることがあります。そのすき間に裂け目ができるとそこから孔ができて黄斑円孔となります。黄斑円孔では中心部の視野欠損と視力低下が生じます。孔が中心部に近く、大きいほど症状も強くなります(図3、4、5)。

図5:上は硝子体膜に牽引されている黄斑部、下はわずかに裂け目のあいた小さい黄斑円孔
図6:黄斑上膜、図7:自然経過で治癒した黄斑上膜、図8:上が図6、下が図7のOCT画像
黄斑上膜も黄斑円孔も、後部硝子体剥離が生じてくる50から70歳ぐらいの方に好発します。黄斑円孔は、近視の人や女性に多く発症することも報告されています。どちらも予防法はなく、目薬や飲み薬で症状が改善することもありません。黄斑上膜ではまれに自然に薄い膜がはがれて治癒することもあります(図6、7、8)が、一般的には硝子体手術で治療します。硝子体を切除し、網膜の一番内側にある「内境界膜」という膜を、黄斑部を中心として直径数ミリ程度はがします(黄斑上膜ではセロファン状の膜ごと内境界膜をはがすことになります)。最後に眼の中に特殊なガスを入れ、3日から1週間ほどうつ向きを続けてガスの力で黄斑部の網膜を引き延ばします。多くの場合、自覚症状は手術後に改善しますが、視力の回復には数カ月以上を要することもあります。内境界膜という薄い膜も一緒にはがすので全く元通りの網膜の形が戻るわけではなく、多少のゆがみが残ることがあります(図2)。黄斑上膜では手術は急がず、ゆがみかなり気になってくるか、視力が0.5〜0.7ぐらいになる頃に手術を考えます。症状が少なければ数年間様子を見ることもあります。黄斑円孔では小さくても円孔があれば手術を考えるべきでしょう。緊急手術ではありませんが、あまり放置しておくと回復が悪くなることもわかっています。両眼に生じる場合もありますが同時には起こらないので、たまに片目ずつ隠して見え方を比べてみるとよいでしょう。
マンスリーの過去記事は当院HP「目の病気」でご確認ください。在庫があれば受付でもお渡しできます。