眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e102

投稿日 2016年11月1日

硝子体手術について(その2)

院長 廣辻徳彦

前回は、眼球内容積の多くを占めている硝子体について、基本的なことを書きました。硝子体は眼が成長してしまうと、内容物であるという以外に大きな意味を持たない組織です。しかし、網膜に接しているのでいろいろな病気を引き起こすきっかけになったり、悪化させる因子になったりすることがあります。硝子体そのものや、出血などが原因で網膜と硝子体を巻き込んだような組織(これを増殖膜などと呼びます)によって生じる病気の治療に用いられるのが硝子体手術です。
白内障や緑内障と並んで有名な「網膜剥離」は、硝子体手術の適応となる病気です。その中でも代表的な「裂孔原性網膜剥離(図1)」では、水色で書かれた硝子体が網膜を引っ張って裂け目(裂孔)を作り、裂孔から液化した硝子体が網膜下に入りこんで網膜剥離となります。眼球の外にシリコン性のスポンジを縫い付けて、網膜を引っ張る硝子体の力を少なくする方法(図2)が一般的でしたが、硝子体手術(図3)では網膜を引っ張っている硝子体を取り除けるので、スポンジを縫い付けて眼球の形に変化を与えなくても網膜剥離が治療できます。紙面の関係で図が小さいのですが、眼球に硝子体を切り取って吸引するための「硝子体カッター」、硝子体が吸引されて減少する眼球内容積を補充して置き換える還流液、眼内照明の入口を作り、操作します(図3)。必要に応じて小さなハサミ、眼内レーザー、(薬物注入のための)注射器などに持ち替えて使用します。剥離している網膜は、眼内に空気を入れて網膜下にある液を押し出してきれいに伸ばし、裂孔は冷凍凝固やレーザー光凝固で処理します。

(左から順に図1、図2、図3、図4:図は日本眼科学会HPより引用いたしました。)
 糖尿病が原因で網膜の毛細血管が詰まると、網膜の組織が酸素不足に陥ります。その結果、血流を回復させるために「新生血管」というものが作られるのですが、この「新生血管」は出血しやすく、網膜内だけでなく硝子体に向かって伸びていこうとします。新生血管から出血を繰り返したり、新生血管周囲で硝子体と網膜の組織とが癒着して増殖膜を形成したりして、図4のような網膜剥離が生じることがあります(増殖糖尿病網膜症と呼びます)。裂孔がないのに増殖組織に引っ張られて網膜が浮き上がるタイプの網膜剥離です。硝子体手術では増殖膜を丁寧に処理し、引っ張られて縮こまっている網膜を綺麗に伸ばす作業を行い、必要に応じて手術中に光凝固も行います。増殖糖尿病網膜症ほど複雑ではありませんが、「黄斑上膜」という病気にも硝子体手術が行われます。硝子体膜の一部が網膜、特に黄斑部という中心部に張付くなどでしわを作られ、物がゆがんで見える病気です。この場合も、黄斑上膜を丁寧に剥がして網膜のしわを伸ばします。黄斑上膜をはがす際には、どうしても網膜の内境界膜という薄い膜も一緒に剥がしてしまうので、手術が完璧であっても多少ゆがみが残ることがあります。
 硝子体手術では多くの場合、術後に眼内に特殊なガス(時にシリコンオイル)を入れて、網膜をガスの力で伸ばしつつ元の位置にくっつけるようにします。ガスが眼球内で上方に浮かぼうとする力を利用するので、1週間ほど下向きの生活をするのですが、このストレスは結構なものです(以前よりは期間が短くなる傾向にはあります)。硝子体手術も、器械と技術の進歩でこの20年の間に大きく進化しています。眼球内に挿入する器具の太さは、以前は20ゲージ(0.9mm)という太さが標準でした。現在は25ゲージ(0.5mm)が主流となり、27ゲージ(0.4mm)という細い器具も使用されます。25ゲージの手術では器具を出し入れするための穴も縫わないで大丈夫なので、術後に糸で刺激される痛みを感じることもありません(細いほど器具が「しなる」傾向にあるので、手術の内容によっては太めの方が良い場合もあります)。昔は手を出せなかった病気でも現在では治療の可能性があることも多いので、必要に応じて当院からも紹介をさせていただきます。