理不尽な事件
院長 廣辻徳彦
7月の参議院議員選挙投票日の直前、安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなられるという衝撃の事件がありました。あれから3週間以上が経過し、犯人には特別な政治的目的はなかったことが明らかになってきました。ある宗教の2世信者として苦しんだ結果、教団の関係団体にメッセージなどを寄せていた元首相への見当違いの恨みを募らせたという状況のようです。史上まれに見る失態を演じた警察関係者には、警備計画と行動の改善が望まれます。9月27日に国葬が執り行われると決まったようですので、凶弾に倒れた元首相のご冥福を武道館に向かってお祈りしたいと思います。
理不尽な事件といえば、3年前の7月18日は京都アニメーションのスタジオが放火され、36名が死亡、33名が重軽傷を負った事件があった日です。6年前の7月26日は相模原の障害者施設で19名が殺害され、26名の負傷者が出た事件の日ですし、同じく今年の26日には秋葉原無差別殺傷事件で死刑判決を受けた犯人の刑が執行されたニュースがありました。京都アニメーションの事件では裁判すら始まっていませんが、相模原事件ではすでに死刑判決が確定しています。今回の元首相銃撃事件でも裁判の過程で事件を起こした理由を追求することになると思いますが、それに意味があるのかはわかりません。このような心理状態を解明して次の事件が起こらないようにするという意見を聞くこともありますが、普通はこのような考えに至りませんし、考えても行動を起こさないからです。このような理不尽な事件に巻き込まれた方は、ご自身やご家族も含めて生活が全く変わってしまうこともあるでしょう。加害者にも人権があるのでそれをないがしろにはできませんが、それよりは被害者とそのご家族に寄り添う社会であってほしいと思います。
銃撃事件の後、例の教団と政治家との関わりが話題になっています。いろいろな団体が政治的な要求をするために候補者を推薦したり、政治家が支持を求めて各種団体と関係を結んだりするのは珍しいことではなく、医師会や薬剤師会、郵便局や建設業界や日教組にも推薦候補がいます。ただ、過去に霊感商法で問題があった組織に対してまでも、一票が欲しいために媚を売るのは如何なものかと考えます。ある与党はそのまま宗教団体であるという関係もある中、政治家にこの問題が解決できることは期待できません。せめて選挙の際には、そういう関係まで考えて投票しなければと改めて考えさせられます。
健康とは!(各自で感染には気をつけよう)
新型コロナウイルス感染症は、7月に入って大爆発を起こしてしまいました。今年に入って猛威を振るっているのがオミクロン株です。昨年末から日本でも流行の中心となり始め、今年の春には第6波として猛威を振るいました。最近では「BA.5」などとの言葉をニュースで聞きます。これはオミクロン株のウイルスの遺伝子配列が変化した亜種のことで、現時点で「BA.1」から「BA.5」に分類されています。春に流行していたのは主に「BA.1」と「BA.2」で、現在わが国ではほとんどが「BA.5」による感染とされています。「BA.5」は「BA.2」に比べて、①感染スピードが1.27倍早い、②ワクチンの効果はあまり変わらないかやや低い可能性があるらしい、③重症化リスクは同じくらい、言われています。8月にピークを迎えて緩やかに下降していくのではという予想がされていますが、1日に20万人の感染者数が続くということは、わずか1週間で国内の総人口の1%が新たに感染しているということです。デルタ株に比べて病原性が低く重症化しにくいとは言われていますが、感染者数が増えれば重症化する人の数が増えるのは自明の理で、コロナ病床稼働率が急増しているのも当然です。最近では5月にインドで確認された「BA.2.75」系統が、各国で広がりはじめていて、すでに日本でも東京都や神戸市で確認されています。この「BA2.75」は「BA.2」と「BA.5」の特徴を併せ持っているので、ギリシヤ神話の上半身が人で下半身が馬という怪物に例えて「ケンタウロス」とも呼ばれています。今後、「BA.5」の後に続いて感染拡大の原因になるかもしれないと注目されています。
経済活動も無視できない今、何をすべきかといえば各自が対策する以外にはありません。コロナウイルスの感染はエアロゾルを含めた飛沫感染が主な原因です。人が多いところや会話のあるところでのマスク装用と部屋の換気が重要なのは変わりません。ワクチンの効果は素晴らしとは言えませんが、するとしないでは差があり、重症化リスクは確実に下げるとされています。接種から日が経つと効果が減弱するので、3回目はもちろん、できれば4回目も接種していくのが望ましいと思います。現在、若者と子供から感染している人が増えています。若年者は重症化しないからといって積極的にワクチン接種をしてこなかったツケかもしれません。今年はお祭りなども開催される方向になると思います。屋外での感染リスクは少ないですが、自分や家族のためを考えた行動をしたいものです。