眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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広辻眼科マンスリー 第m199

投稿日 2022年9月1日

重陽の節供

院長 廣辻徳彦

35℃の気温を超える猛暑日がいつまでも続くかと思ってしまうような最近の夏ですが、それでもやはり季節は変わっていきます。お盆を過ぎた頃から少しずつ日暮れの時間が早くなり、最近ではようやく夜に冷房のスイッチを入れなくて済むようになりました。「子供の頃の話」というと、もう半世紀も前であるという事実に愕然としますが、昔はお盆の頃からツクツクボウシが鳴き始めて夏休みの終わりを感じていたものです。温暖化が進めばセミの鳴く時期にも変化が出るかもしれませんが、季節を感じる気持ちは大事にしたいものです。さて、8月上旬にピークを迎えるのではないかと専門家の先生が予想していたコロナ感染症第7波は、8月も終盤の最近になってようやく減少傾向となっているように見えます。9月1日が始業日だった2学期の開始も地域や学校で少しズレがあるようですが、学校が始まればもう一度感染が広がる可能性があるかもしれません。今更生活や経済活動の自粛を求められることはないように思われますので、「ウイズコロナ」を新しい日常としてそれに慣れていかなければならないのでしょう。
9月は、9日が「五節供(節句)」の一つである「重陽(ちょうよう)の節供」にあたります。現在は「節句」という字が当てられていることが多いのですが、元々は「節供」という字であったようです。五節供は日本での宮中における伝統的節会や民族的節日に、中国からの考え方や命名が合わさって江戸時代に定められた節日です。人日(じんじつ、正月七日)・上巳(じょうし、三月三日)・端午(たんご、五月五日)・七夕(しちせき・たなばた、七月七日)・重陽(ちょうよう、九月九日)の五日がそれに当たります。中国では奇数が縁起の良い陽の日、偶数が陰の日とされ、奇数が重なる日を祝う習慣があったようです。それぞれ七草、桃、菖蒲、笹、菊という植物が合わせられ、9月9日は別名「菊の節供」と呼ばれます。菊はお供えの花のようなイメージもありますが、菊の花から滴る雫が川に落ちそれを飲んだ者が長寿になったという長寿伝説にあやかり、「不老長寿を祝い邪気を祓う花」でもあります。昔の太陰暦と現在の太陽暦の誤差のせいで菊の季節が少しずれてしまっているために、他の節供に比べると知名度が低いような印象も否めないところもあります。9月とはいえ9日ではまだ夏の匂いが残っているでしょうが、今年の節供ではお酒に菊の花を浮かべる「菊酒」をいただいて、健康や長寿を願ってみてはいかがでしょうか。

健康とは!(あるベストセラー作家の死)

近藤誠さんという医師をご存知でしょうか。「患者よ、がんと闘うな」という題名の本など多数の本を書き、「がんもどき(食べ物ではなく、がんと似ているけど違うものという意味)」という独特の理論を展開していた人です。この近藤医師が8月13日に73歳でお亡くなりになりました。がんに対する化学療法を批判する書物も多く、出版された書物は数多くベストセラーになっていたようです。もともとは慶應大学に勤務されていて、乳がんに対して海外で普及していた「乳房温存療法」を日本で最初に提唱したという実績のある先生です。おそらくは大変優れた医師であったのでしょうが、いつの頃からかがんに対する化学療法や手術療法に独特の理論を展開されるようになりました。
化学療法ではどうしても一定の副作用が生じます。体力が落ちている患者さんに使うとマイナスの作用が目立ってしまうこともあります。手術もしかりで、がんの切除をするために大きな手術をしてしまうと、回復が困難になったり手術の後遺症で苦しんだりしてしまうこともあります。そこで、数多くの医師のグループがいろいろながんに対して治療を行った結果の解析をして、治療のガイドラインを作成しています。臓器別に組織、大きさ、浸潤度、転移の有無などで分類された各ステージのがんに対して、どの検査や治療が適切で科学的根拠(エビデンス)があるのかを標準化しているのです。患者さんの年齢やどういう治療を望むかという希望も合わせ、計画を立てるのが現在の治療です。昔は「ともかく切ってみましょう」と手術をしたり、医師独自の考えや配合で化学療法を行なったりした時代があったのも間違いありませんが、最近の標準的ながん治療は、数多くの医師やスタッフが長年かけて積み重ねてきた治療方法をまとめ上げ改良を続けている、「科学的な治療法」なのです。
近藤先生は、「がんもどき」は放置しても転移しない問題ないオデキのようなもので、転移する本当のがんは手術や放射線治療をすると却ってあばれだしてしまう、と独自理論を展開されていました。海外の雑誌から化学療法の治療効果を示すグラフを引用した上で、本文と違う結果に読み替えて危険性を主張するという科学者として禁忌なこともされていました。日本人の半分ががんになり、3分の1はがんで死ぬ時代、治療の最終決定は患者さん自身が行うべきことですが、医師というよりベストセラー作家として出版社に貢献(利用?)されていた近藤医師の訃報に思うところを書いてみました。