「乱視」とは(その2)
院長 廣辻徳彦
前回は角膜にラグビーボールのような縦と横のカーブが違うひずみがある場合に、一点に光が集まらずぼやけてしまう状態=「乱視」ということを書きました。球面レンズという一点に光が集まるレンズではピントを合わせることができません。こいう場合には、「円柱レンズ」という形のレンズを用いて矯正を行います。
左図のような円柱形のガラスから、カマボコ型に切り取った緑色の部分(透明なガラスと考えてください)を作ります。これが円柱レンズ(凸レンズ)で、円柱の中心を通る向きを軸といいます。カマボコ型のレンズを軸に沿って平行に切ると、どこを切っても長方形(黒矢印:カマボコを縦に切っていると思ってください)になります。軸に垂直に切れ目を入れると当然カマボコ型の凸レンズの形(白矢印:普通にカマボコを切る向きです)になります。すなわち、緑色のレンズの軸に平行な光(黒い大きな矢印)は長方形のレンズというかガラスを通るだけなので光の屈折を受けず、軸に垂直な光(白い大きな矢印)は凸レンズを通るので焦点に光が集まることになるわけです。この円柱レンズに光を当てた場合には一点に焦点ができず、一本の線に光が集まります(焦線)。このレンズの場合は軸に平行な光の線になります。右から2番目は前回もお示しした乱視を示している図ですが、縦の軸に強主経線(強いカーブ)、横の軸に弱主経線(弱いカーブ)が入っています。強主経線を通る光の焦線は手前に、弱主経線を通る光は後に焦線を作ります。上記の緑色のレンズを使う場合、軸を強主経線に合わせて入れると、軸に垂直な(=横の向きから入ってくる)光のみがレンズの屈折を受けます。元々のレンズの横軸の弱いカーブにこのレンズの屈折値がプラスされ、後焦線にあっていたピントが手前に引き寄せられることになり、度数を調整すればピントを一点に合わせることができます。一番右には凹レンズの円柱レンズを示しています。円柱レンズの凹レンズは、軸に平行な光は光を屈折させませんが軸に垂直な光は広がっていきます。この凹レンズの円柱レンズを使う場合は、弱主経線に円柱レンズの軸を合わせて、前焦線のピントを後ろにずらして矯正することになります。このように、円柱レンズを利用してラグビーボール型のひずみを持つ乱視の矯正を行います。
近視や乱視でメガネの処方箋をもらったことがある人も多いと思います。レンズには近視や遠視を矯正する球面レンズと乱視を矯正する円柱レンズとがあるので、処方箋にはその情報が書いてあります。球面レンズは球をsphereというので「SまたはSph」、円柱レンズは円柱がcylinderなので「Cまたはcyl」と表されます。円柱レンズには軸があるのでその軸の向きがAxis(Axなど)です。凸レンズは「+」、凹レンズは「−」で表すのが物理学の決まりで、レンズの度数はdiopter(ディオプター)という単位なので「D」と書かれます。眼鏡を作る場合はその人それぞれの眼の位置に合わせることが大事で、その位置を瞳孔距離(Pupil diameter:P.D.)と言います。眼鏡を作る場合は枠に合わせて眼鏡屋さんがレンズの中心を調整してくれますが、瞳孔距離は眼科で測定します。斜視がある場合にはそれを矯正するためのプリズムレンズ(prizm lenz)を用いるのでその情報(プリズム量とその向き)も記載しますが、ここでは割愛します。例えば、近視性乱視の処方箋であればこのようになります。
Sph | Cyl | Ax | P | Bese | P.D. | |
R | -2.5D | -1.0D | 180 | 63 | ||
L | -1.5D | -0.5D | 180 |
このように、屈折にひずみはあっても強主経線と弱主経線で表され、円柱レンズで矯正できる乱視を「正乱視」と言います。正乱視があればそうでない乱視もあり、次回は乱視の最後、不正乱視などについて書いてみます。(なお、図は医学書院、「最新眼科学」第7版から引用させていただきました。)