網膜剥離(再び)その2
院長 廣辻徳彦
先月の続きです。今回は網膜剥離の中で裂孔がある「裂孔原生網膜剥離」という病気について、その治療について述べたいと思います(以下、網膜剥離と書いているのは裂孔原生網膜剥離のことと考えてください)。少し難しくなりますが、網膜剥離が起こるには三つの条件が必要と言われています。その三つとは、①網膜裂孔の存在、②網膜に対する眼球内側への牽引力、③液化硝子体の存在です。①は網膜に穴が開いているということです。②の眼球内側への牽引というのは、硝子体という眼球内にあるゼリー状の液体の一部が網膜に癒着して、網膜を眼球壁から内側に向かって引っ張る力をかけているということです。③の液化硝子体とは、元々はゼリー状の硝子体の一部が年齢とともに水っぽくなったもので、それが網膜裂孔を通じて網膜の外側に回り込んで網膜が剥離します。図で眼球内の水色のところがゼリー状の硝子体で、太い矢印のところに網膜を引っ張る力がかかっています。オレンジ色のところが液化硝子体で、細い矢印のように網膜裂孔から網膜の外側に入り込んでいるという状態です。
網膜剥離の手術は、網膜剥離が起こる三つの条件を解除するための手術であると言い換えることもできます。大きく分けて強膜内陥術と硝子体手術という2種類の方法があり、強膜内陥術は比較的若い人や裂孔が網膜の周辺部にある場合に、硝子体手術は中高年以上の人や再手術、難しい状態の場合に選択されます。どちらの方法で行うかは簡単に線引できませんが、最近は硝子体手術が多く選択される傾向にあります。硝子体手術を行うと白内障の進行が加速することが多いので、5−60歳以上で硝子体手術を行う場合は同時に白内障手術をすることがあります。
強膜内陥術は、①に対して液体窒素を利用した冷凍凝固という方法で、裂孔の周囲にごく小さな冷凍やけどを作って網膜に癒着させます。②の網膜を硝子体が引っ張る力(左図:黒矢印の力)に対しては、眼球の外壁である強膜にシリコン製のスポンジを縫い付けて内側にくぼませる力(左図:白矢印の力)をかけて相殺します。黒の曲がった矢印は、裂孔が塞がって網膜の外側には入りこめなくなった液化硝子体を示しています。③の網膜下液(網膜の外側に貯まっている液化硝子体のこと)は、強膜に小さな穴を開けて眼球の外側に排出します(中図)。
硝子体手術は眼内に細い器具を挿入し、ゼリー状の硝子体を切除+吸引して網膜にかかっている力を解除します。その上で空気を眼内に入れてその力を利用して剥離した網膜を伸展して眼球壁に押し付け、網膜下液を抜いたり裂孔の周りにレーザーなどを行なったりする手術です。網膜剥離に対しても、まず②の網膜に牽引をかけている硝子体を切除して網膜に引っ張る力を除去します。③の網膜下液は手術中に眼球内に空気を送り込み、別の小さな穴を開けてそこから空気の圧力を利用して下液を吸引し、網膜を眼球壁にくっつけます。最後に①の裂孔周囲をレーザー光線や冷凍凝固で瘢痕化させます。硝子体手術の場合、術後に多くは眼内に六フッ化硫黄(化学式:SF6)というガスを充満させ、1週間ほどうつむき姿勢をとり網膜を眼球壁に押し付け続けてくっつく力を高めます。
図は左から硝子体手術をしているイメージ、網膜剥離の眼底写真、術後にガスの入っているところと、治っている眼底写真です。
(図は日本眼科学会HPから引用)
網膜剥離は手術をしないと失明につながる病気ですが、機能的に完全に回復しないことはあっても、よほどの重症例でない限りはほぼ治ると言ってよい病気です。おかしいと感じたら、まず受診されることをお勧めします。