眼瞼下垂
院長 廣辻徳彦
眼瞼下垂という病気については耳にされたことがあると思います。文字通り、まぶた(眼瞼)が下がっている状態のことで、一般的に上まぶたが下がっていることを言います。以前、2013年のマンスリーに「加齢に伴う目の病気と変化」と題して少しだけ書かせていただいていますが、今回は眼瞼下垂を取り上げてみます。
眼瞼下垂にもいくつか症状があります。下がってきたまぶたが邪魔になるので見えにくく感じます。下がっているまぶたを引き上げようと無意識のうちに努力をするようになり、常に眉や額の筋肉に力が入ることになり、頭痛や肩こり、眼精疲労を感じることもあります。他人からは眠そうに見られることもありますし、特に女性では整容的に気になってしまいます。眼瞼下垂の種類を考えてみましょう。
①生まれつきに起こるもの(先天眼瞼下垂)
文字通り生まれつきに眼瞼下垂がある状態です。まぶた引き上げる筋肉の発達が悪いせいで、片眼もしくは両眼のまぶたが上がりにくくなっています。片眼性で程度が強い場合は、その眼の視力が発育しない弱視になることがあるので手術が必要になります。両眼性で顎を上げて下目使いでものを見ている場合は弱視にはなりませんが、目立つ場合は整容的観点から就学前に手術をします。先天性のものにはもう一つ、「マーカス・ガン現象(下顎眼瞼連合運動現象)」というものがあります。まぶたを動かす神経と口を動かす神経が先天的に異常な連絡を持つことによって、口(=顎)を動かす時に同時にまぶたが上がる動きが生じてしまうという現象です。年齢とともに自己矯正される場合もあるようですが、手術を要する場合もあります。
②大人になってから起こるもの
多くは加齢に伴って起こるもので、まぶたを上げる筋肉が弱くなったり、腱が伸びてしまったり付着部から外れてしまったりすることが原因となります。程度の差はあれすべての人に起こるのですが、瞳孔にかかってくる場合は整容的にも見え方を邪魔するという観点からも手術が必要になります。加齢による変化以外には、緑内障の治療薬であるプロスタグランジン製剤を長期に使っている場合に、眼瞼下垂(そのほかに色素沈着や睫毛が太く長くなるなど)が起こることがあります。脳梗塞などで動眼神経という脳神経が麻痺しても起こりますが、特に脳動脈瘤が大きくなって起こる動眼神経麻痺での眼瞼下垂は動脈瘤の手術が早期に必要となります。他にも交感神経の病気であるホルネル症候群や、外傷、腫瘍などの圧迫でも生じます。こうした場合は、原因疾患の治療が眼瞼下垂の治療になります。下図左の正常な状態では、角膜(黒目)に少しかかる程度ですが、中央のように瞳孔にかかる場合は眼瞼下垂で、瞳孔の中心部分にかかると重度と考えます。右図は加齢による顔の変化(左:若年、右:老年)ですが、まぶたが下がってしまい、眉や額の筋肉の助けを借りて上げようとするので、額にしわが寄って眉毛の位置も上がります。
眼瞼下垂の治療は手術で行います。瞼を引き上げる眼瞼挙筋とミュラー筋という筋肉を短縮したり付着部分の修復をしたりするものです。傷あとは二重瞼に隠れるので目立たず、弛緩している皮膚も同時に切除できます。もう一つ、吊り上げ術という方法では、太ももの筋膜やゴアテックスや人工糸のようなもので瞼組織と眉毛の奥にある前頭筋とを繋ぎ、引っ張り上げるようにします。眼瞼挙筋やミュラー筋の働きが悪い場合に使われる方法です。ただ、まぶたの状態は見た目にかなり気になることが多いので、手術後のことについては術前によく説明よく聞くようにしてください。
他に、眼瞼下垂に似ている変化、病気もあります。眼瞼皮膚弛緩というものは、まぶたを上げる機能はそれほど悪くなっていないのに、まぶたの皮膚が加齢で弛緩してまぶたの縁を超えて垂れてくるものです。甲状腺の病気ではまぶたが開き気味になってしまう場合があり、左右差があれば正常に近い眼が下がり気味に見えることもあります。顔面神経麻痺後に片方の皮膚が弛緩してしまう場合も眼瞼下垂に似た状態になることがあります。
加齢によることが多い病気ですが、程度によっては手術も選択肢であることを考えて良いと思います。