網膜剥離(再び)その1
院長 廣辻徳彦
網膜剥離という病気については初期の頃に一度、また4年前に硝子体手術のことを書いた際に書いています。毎年数名の網膜剥離の患者さんを病院に紹介しているのですが、この2ヶ月間で手術を要する患者さんが6名も受診されました。あまり適切ではないのですが、今月の表ページ風に書けば「通常約1年分の患者さんが2ヶ月で受診された」という具合です。網膜剥離はとても重要な病気なので、今回再びそれについて書いてみます。
眼の構造は外側から強膜、脈絡膜、網膜の順で三層構造になっています(下図参照)。 網膜剥離がどういう病気かといえば、「網膜が剥がれてしまっている病気である」という理解で概ね正解と言えます。となると網膜剥離は網膜が脈絡膜から剥がれてしまう状態だと想像してしまいます。ですが、マンスリーは眼の病気を正しく説明しようという趣旨なのでもう少し詳しく書くと、「網膜と脈絡膜の間」ではなく「網膜に10層ある組織の中で一番外側にある網膜色素上皮とそれ以外の内側の9層の間」で剥がれるのです(下図参照:なぜその部分で剥がれるのかの説明は省きますが、胎内で眼球が発生する過程に理由があります)。さて、網膜剥離にもいくつか種類があり、上記した速やかに手術が必要な「網膜剥離」というのは、その中で「裂孔原性網膜剥離」という種類のものです。網膜剥離は次のように分類されています。
1 裂孔原性網膜剥離
2 非裂孔原性網膜剥離
(1)滲出性網膜剥離
(2)牽引性網膜剥離
一般に広く網膜剥離として認識されていて、今回のお話の中心になるのは1の「裂孔原性網膜剥離」です。2-(1)の滲出性網膜剥離は何らかの原因で網膜の外側から滲出液が出てきて、網膜剥離が起こるものです。中心性漿液性脈絡網膜症や黄斑変性症などが該当します。2–(2)の牽引性網膜剥離は網膜の表面に付着した硝子体や増殖組織が網膜を引っ張ることによって起こり、重症の糖尿病網膜症の場合などに生じることがあります。ここからは、特に断らない限り「網膜剥離」と記載する場合、「裂孔原性網膜剥離」のことであるとさせていただきます。
「裂孔原性」の裂孔とは「穴」のことです。網膜変性(網膜の弱いところ)があったり、眼球の内側にある硝子体というゼリー状の液体が網膜を引っ張ったりして網膜に穴が開き、そこから液化硝子体という液体が網膜下に浸入して網膜が剥がれてしまいます(下図参照)。網膜変性は生まれつき持っている場合もあり、近視などの原因で網膜が薄くなって起こる場合もあります。どの年齢で網膜剥離が起こるかといえば、20代と5-60代ぐらいで発生することが多いとされています。20代では網膜に薄いところがあることが多く、5-60代では「後部硝子体剥離」という加齢で起こる現象に伴い硝子体が網膜を引っ張って裂孔ができることが多いです。
網膜剥離が生じても、普通は痛くも痒くも、充血すらありません。ただ、剥がれた網膜のところは光を感じにくくなるので、進行すると視野の中で見えにくいところを感じるようになります。いつもは両眼を開けて見ているので、かなり進行するまで気がつかないこともあります。ただ、まったく何も感じないわけではなく、「飛蚊症」という目の前にゴミや虫が飛んでいるような症状が、網膜剥離の前駆症状として有名です。また、比較的暗いところで視界の端の方にキラッと光が見える「光視症」も大事な症状と言われています。実際には、飛蚊症や光視症があれば全て網膜剥離ということはなく、そういう症状の人を何十人も診てやっと一人あるかないかという確率です。しかし、裂孔があっても液がほとんど網膜の後に浸入していない初期の状態なら、入院や手術なしでレーザーだけですむこともあるので、前駆症状があれば詳しい眼底検査をお勧めしたいところです。
上図は眼球の断面図で網膜、脈絡膜、強膜の三層構造を示します。中図は左図□部分の拡大です。凹んでいるところは黄斑部、中央の三本線の一番外側(向かって右)の白線が網膜色素上皮です。右図は裂孔原性網膜剥離の模式図です(日本眼科学会HPから引用)。
次号に続きます。