眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e140

投稿日 2020年1月6日

眼の治療とねずみ

院長 廣辻徳彦

ねずみと一言で言っても、ねずみの仲間は結構たくさんいます。そうそう目にすることはありませんが、街中にはドブネズミがたくさんいるそうですし、有名なところではハツカネズミなどもいます。メットショップで人気のハムスターやモルモット、動物園のカピバラ、川辺やお堀などに住みついているヌートリアもねずみの仲間です。ねずみの仲間は可愛いらしく見えるのでペットとして人気がある反面、自然界にいるねずみに噛まれて鼠咬症という感染症を発症したり、排泄物に含まれるサルモネラ菌、レプトスピラ菌、チフス菌や、E型肝炎ウィルスなどの様々なウィルスに感染したりすることもあります。また、ネズミに寄生するダニやノミが原因で、ツツガムシ病やペストに罹患することもあるので、可愛らしいだけでなく注意が必要な動物でもあるのです。
ねずみの仲間は医学や薬学の研究や進歩には欠かせない動物でもあります。動物を様々な実験に使うことには賛否あると思いますが、薬の必要量や毒性、催奇形性、妊娠に与える影響などを調べるのに、実際の人間で確かめる訳にはいきません(妊娠などへの影響以外は最終的には人間での治験が必要です)。動物は妊娠期間や成長期間が人間よりもはるかに短いので、いろいろな影響の可能性を早く知ることができます。もちろん良い環境で飼育し、最終的にはできる限りの安楽死で送ってあげないといけません。ちなみに実験動物の中では、ねずみだけでなくウサギ、イヌ、サルなどが用いられますが、ねずみの仲間は飼育するスペースが小さくて済むこと、身体が小さいので扱いやすいこと、動物の中でも成長期間が短いこと、コストがかかりにくいこと、などから多くの実験に利用されています(もちろん人間とできるだけ同じにという条件がつけば、サルの様な動物を使うことも必要になります)。ねずみの中でも、マウス、ラット、モルモットでは大きさも異なります。一般的な英語でも、マウスはハツカネズミのような胴体が数センチから10センチ以下の比較的小さくかわいらしい種類、ラットはドブネズミやクマネズミのようにあまり清潔な印象ではない胴体が20センチを超えるような大きな種類を指します。モルモットは胴体が概ね20〜40センチぐらいと大きめです(写真は左からマウス、ラット、モルモット)。

ねずみの仲間は眼科の治療や研究にも大きく役立っています。失明につながるような眼の病気には、緑内障や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症などがありますが、それらの病気の機序を明らかにするための病態モデルというものが作成できれば、原因の究明や治療にも役立てることができます。例えば緑内障であれば眼圧がその進行に関係しているので、人工的に高眼圧を生じるように負荷をかけて神経や網膜細胞の変化を見ることや、特殊な薬品を眼内の硝子体腔に投与して網膜障害モデルを作成できるので、どのような薬剤でその変化を少なくできるかなど確認することができます。糖尿病では網膜症という失明につながる状態が発症することが知られていますが、発症している人の眼を直接取り出して調べることはできません。糖尿病の病態を持つ糖尿病モデル動物というものも存在し、糖尿病マウスやラットという形で実験用に販売されているものもあります。その中でヒトと同じ病態の網膜症を発症するものはまだない様子ですが、似たような網膜症を発症するものは存在しています。
昨年網膜色素変性症の患者さんに、iPS細胞由来の網膜組織を移植して視機能の再生(改善)を目指すというニュースがあったのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。今年の夏にも1例目の移植を目指しているということです。この前段階では、マウスのiPS細胞から作られた網膜組織を、末期網膜変性を起こしているマウスに移植するという実験が行われています。実験の結果、移植した網膜組織の視細胞が移植されたマウスの神経細胞につながり、失明状態であったマウスが光を認識して行動できたと報告されています。移植した網膜組織が移植された側の網膜に生着して働き始めることを確認するために、またiPS細胞はどの様な細胞にも分化できる特性を持っているので移植した組織がガン化しないかどうかなどを確認するためにも、移植後の眼球組織を取り出して検査する必要があります。かわいらしいだけではなく(もちろん困ったこともたくさん引き起こすのですが)、とても役に立ってくれているねずみたちを、干支である今年は見直してあげてください。