メガネについて
院長 廣辻徳彦
ある市場調査によれば、20〜60代の男女1,000人にアンケートを取った結果、約78%の人がメガネやコンタクトレンズを使用していることがわかりました。裸眼の視力が良いのに伊達メガネを使っている人やカラーコンタクトレンズを装用している人もいますが、かなりの人がメガネと関わりがあることがわかります。その昔、というか今でも、欧米人が日本人(東洋人)を差別して描くとき、メガネと出っ歯と吊り目をセットにして描くことがよくあります(今回の趣旨とは離れますが、欧米人には差別問題に関して人の批判をしても批判されると腹をたてる人が多いように思います)が、くだらないことはさておき、東洋人には遺伝的に近視が多いことは事実です。メガネと縁の深い私たちは、それを正しく使う知識を持っている方が良いのというのは間違いないでしょう。メガネを使う場合は、遠視や近視、乱視などの「屈折異常」があって遠くが見えにくいという理由のほかに、手元を見るための調節力の年齢的な衰えを補正するため(いわゆる老眼鏡)、作業などで生じる飛来物や紫外線、赤外線から眼を守るため(保護メガネ)、眩しさを軽減するため(サングラスや遮光メガネ)などいろいろです。子供の視力を発育させるための治療用メガネ(弱視、斜視など)もとても大事なものです。
メガネの構造はどうなっていのでしょう。メガネフレーム(メガネ枠)のうち、前面部分を総称してフロントといいます。フロントで、レンズの入る部分をリム、鼻のところのつなぎ目の部分はブリッジ、鼻に当たって支えるところがパッドとパッド足、フロントにつながって耳にメガネをかける直線部分はテンプル、テンプルの先で耳にかかる曲線部分はモダン、テンプルとフロントのつなぎ目は丁番(ジョイント、ヒンジ)、フロントと丁番をつなぐ角のところは智(チ、ヨロイ)という名前がついています。
テンプルの内側にはいくつかの数字が書いてあります。商品番号や made in japan なども書いてありますが、「55□16 138」という文字列があるはずです。55はリムの内側の横幅、□はボクシングシステムという国際規格、16は左右のレンズ間距離(鼻幅)、138はテンプルの長さを表しています。レンズ間距離は左右のリムの内側の距離なので、この場合であれば55×2+16=126ミリが枠を除いたメガネのフロント幅になるということです。この幅が顔の大きさに合うように枠を選ぶようになっています。
どのようなメガネの度数がいいかを決めて処方するのは眼科医の仕事で、その処方箋をもとにメガネを調整するのが眼鏡店の仕事です。それぞれの顔に合わせて正しいレンズの中心を枠に入れて調整するのは、技術と経験のいる仕事です。ところが、医師や薬剤師、弁護士のように一定の業務をするのにその資格がないと許されない業務(業務独占資格)と異なり、メガネの調整に国の認める資格は必要ありません(というか現時点では存在しないのです)。極端に言えば、昨日バイトで入職した人がメガネを作成しても法律的には全く問題ありません。もちろん普通の眼鏡店ではそのような人は働いていませんし、「日本眼鏡技術者協会」という団体が一定期間の学習や実務経験をした人に、「認定眼鏡士」という制度で定めた認証をしています。認定眼鏡士にもS級、SS級、SSS級という段階がありますが、認定眼鏡士に作成してもらうと、より間違いのないメガネが作れると思います。
それでもメガネが合わない、疲れるという声はよく聞きます。初めから度数が合っていないメガネを作ることはないのですが、クリニックで試してみる時間には限りがあるので、そのような場合には再確認をする必要があります。間違いのない度数で合っても、メガネの掛け方がずれていてレンズの中心と視線(アイポイント)が異なってしまうと疲れの原因になります。また、顔の形は全く左右対称ではありません。耳の高さやメガネのフロントから耳までの距離が左右で異なっていることもあるので、顔に合わせた調整が必要です。同じフレームをかけても、鼻の高さが違えばレンズの中心にもズレが出てきます。累進多焦点レンズ(いわゆる遠近両用)のメガネは、上に遠用、下に近用の度数が入っているので、遠くはアゴを引き気味に、近くはアゴを上げ気味(視線を下に向ける感じ)にしないとピントが合いにくく感じます。特に階段を降りるときには視線を下に向けないと、足元が浮くような感じになります。デスクワーク用の近々両用のメガネを普段使いにする、中近両用のメガネを細かな手仕事に使用するなどの間違った使い方で、合いにくく感じている場合もあります。使いにくいことも多いメガネですが、正しく作って上手に使用すると便利な相棒になるので、うまく付き合っていただきたいものです。