眼でわかる全身の病気 その1
院長 廣辻徳彦
少しばかりタイトルが大げさですが、身体の病気の中には眼に所見が出てくるものがあります。普通は身体の異常を感じて内科などを受診して診断がついてから、眼科を紹介されて眼の病気を検査するのですが、中には、はじめに眼の症状を自覚して眼科を受診して異常が見つかり、全身の病気がわかることもあります(テレビの健康番組なら、「眼を見るだけで全身の病気がわかる!」とかタイトルをつけてしまうことでしょう)。
眼に関連する病気は、循環系、内分泌系、先天代謝異常、膠原病、皮膚疾患、感染症、筋肉や骨などを含む結合織疾患、血液疾患、腫瘍、薬物中毒、神経系疾患、その他の先天異常や未熟児に伴うものなど数多くあります。紙面の関係もありますので、その中のいくつかを2回に分けてご紹介します。
以前のマンスリーでも紹介しましたが、有名なのは高血圧やコレステロールなどの脂質異常による眼底の変化です。眼底は身体の中で、直接血管を観察できる唯一の場所なので、眼底検査で動脈硬化や高血圧による血管の変化がわかります。腎臓が悪い場合もこれに似たパターンの変化を生じます。腎性網膜症と呼ばれ、特に出血や網膜の浮腫(むくみ)、脂質などが血管外に漏れて生じる硬性白斑や、循環障害で生じる軟性白斑などが見られるようになります。糖尿病で悪いコントロールが続くと糖尿病網膜症が生じます。最近ではめったにありませんが、視力低下や他の理由で眼科を受診された結果、糖尿病と診断がつく場合もあります。白血病や重度の貧血などの血液疾患で生じる出血では、Roth(ロス)斑という特徴的な変化を認めます。他にも膠原病の中で全身性エリテマトーシスでは軟性白斑や出血、高安病(大動脈炎症候群)という病気で花環状網膜出血と表現される特徴的な眼底所見を呈します。出血ではありませんが、眼球に乳がんや肺がんなどが転移することがあり、脈絡膜というところに転移した腫瘍が観察されることもあります。
左は正常の眼底写真で、黒矢印が動脈、白矢印が静脈です。左から2番目は動脈硬化の所見で、動脈が静脈(赤くて太い血管)を圧迫しています。静脈がくびれているのがわかると思います。3番目は高血圧性の所見で、楕円で囲まれたところの動脈が細く白っぽく見えるようになっています。右は腎性網膜症で、いくつか黄色く見えているのは硬性白斑がかたまりになっているところで、写真だけではわかりませんがその周囲の網膜はむくんでいます。
左は糖尿病網膜症です。内科に全く受診していなかった糖尿病の患者さんで、右上の円の中に視神経乳頭がありますが、新生血管と呼ばれる悪い血管が生えてきています。左下の円の中にも新生血管があります。写真の上方から中央には出血が写っています。左から2番目は白血病の眼底で、たくさんの出血の中に見える白い斑点がRoth斑(矢印)です。右から2番目は高安病の眼底で、視神経乳頭の周囲に動脈と静脈が吻合した血管網(花環状と表現される変化)が見えます、周囲の血管は白くなって枯れています(帝京大HPより引用)。右は転移性腫瘍で白く見えているのが転移した乳がんです。その周囲の盛り上がって見えるところは網膜剥離を起こしています。