網膜静脈閉塞症について
院長 廣辻徳彦
眼底出血という名前はよく耳にしますが、「癌」の中にも胃がんや乳がん、大腸がんなど様々あるように、眼底出血というのが一つの病気の名前という訳ではありません。糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜細動脈瘤、網膜剥離、黄斑変性症やけがによる出血、他にもいろいろな眼底出血があります。糖尿病網膜症は、緑内障に次いで日本人の後天性視力障害の原因となっている病気です。しかし、最近では健診などで早期のうちに眼底検査ができることが多くなり、どうしようもない状態で眼科に初診となる重症の糖尿病網膜症は少なくなった印象があります(血糖コントロールができずにそうなってしまう一定数の患者さんは存在しますが・・・)。
今回紹介するのは、「網膜静脈閉塞症」という病気で(メタボリックシンドロームの項のところでも一度紹介しています)眼底出血の中で代表的な病気の一つです。出血する場所とその程度によって、症状や視力予後に大きな差があるのが特徴です。糖尿病網膜症で血糖コントロールをしておくというような確実な予防法もなく、自然に治癒することもあれば、どれだけ治療しても視力が戻らないこともある病気です。
「網膜静脈閉塞症」が発症する確実な機序はわかっていませんが、網膜静脈の血液の流れが何らかの原因で閉ざされてしまい、血管から血液が漏れ出してしまう(=出血する)と考えられています。多くの場合、網膜動脈と交差しているところで網膜静脈が圧迫されることが原因となるようです。高血圧や動脈硬化と強い関連がありますが、高血圧でなくても発症する可能性はあります。静脈が閉塞する場所によって名前が変わり、視神経乳頭内の太いところで血管が閉塞すれば「網膜中心静脈閉塞症」、視神経付近の最初の分岐部なら「半側網膜中心静脈閉塞症」、それよりも末梢の血管なら「網膜静脈分枝閉塞症」という名前になります。出血とともに血液の液体成分も漏れだすので、出血した網膜の周囲は浮腫(むくみ)が生じてよけい見にくくなります。
症状は出血の場所によって異なりますが、黄斑部を含む中心部分の網膜に出血が及ぶと「視力低下」や「歪曲視(線などが歪んで見える症状)」が生じます。出血した部分で網膜の感度が低下するので、視野障害も生じます。出血は急に生じることが多いので、中心部に近いところに出血した場合には症状も急に出現します。「何月何日から見にくくなりました」、とか「何日前から見えにくいところがあるのに気付きました」というように、病気が生じた時期がわかることが多いのが特徴です。しかし、出血部分が中心部を外れていればまったく自覚症状がないこともありますし、出血範囲が小さければ気づきにくいこともあります。出血が網膜内で留まらず硝子体中に波及すると「硝子体出血」という状態になり、飛蚊症が出現したり急に視野全体がかすんだりする症状になります。かなり広範囲に血液の流れが障害されると、「血管新生緑内障」という難治な緑内障引き起こすこともあるので注意が必要です。
「網膜静脈閉塞症」は、眼底を詳しく観察すればそれだけで診断がつきます。しかし出血に伴う浮腫(むくみ)の程度や部位、血管閉塞の程度などを調べるには検査が必要です。一つは蛍光眼底検査という、造影剤を腕の血管から注射して網膜の血液の流れを調べる検査です。また、網膜(特に黄斑部)の浮腫の程度を調べるには、OCT(光干渉断層計)という検査が有効です。次回、治療について記載します。