スポーツのけがについて その2
院長 廣辻徳彦
年も明けたと思っているうちにもう2月になってしまいました。先月に引き続き、スポーツによるけがについて書いていきます。
先月は打撲などによって起こる「鈍的外傷」についていくつかご紹介しました。「鈍的外傷」とは切ったり突いたりではなく、こぶしやひじ、ボールやバットなどが当たって生じるけがのことです。今回は出血についてのつづきと他のけがについてです。眼球の図を再度載せておきます。
打撲によって網膜が傷むこともあります。網膜そのものの出血が「網膜出血」で、網膜が腫れることを「網膜振とう症」といいます。出血は時間とともに吸収されることが多いのですが、網膜に裂け目ができたときには網膜剥離が生じることもあり手術が必要になります。出血が網膜の中心部(黄斑部)にかかると視力が低下します。この場合も多くは自然に回復しますが、網膜の外側にある脈絡膜にまでけがが及ぶ(脈絡膜破裂)と視力が戻らないこともあります(昔、阪神タイガースで期待されたキャッチャーが、このけがで引退を余儀なくされましたね)。「網膜振とう症」も多くは自然に回復しますが、程度がひどいと網膜に障害が残ってしまいます(下図参照)。
ラケットやバット、ゴルフボールなどが直接眼球に当たった場合、眼球破裂という事故になることがあります。角膜や強膜という眼球を形づくる壁そのものが破れてしまう状態で、もちろん最も重症の部類に入るけがです。眼科では比較的少ない緊急手術の対象になります。角膜や強膜の縫合のほかに、虹彩や水晶体、網膜などにも障害があればその手当も必要です。私も大学に勤務していた時代、夜遅く(というか真夜中)まで手術をした経験があります。程度にもよりますが、眼球破裂の場合に元通り治るというのはかなり運の良いことです。
打撲によって、眼球の周りの骨が骨折することがあります。ひとつは「眼窩底骨折(吹き抜け骨折)」と呼ばれるものです。真正面から強く打撲すると眼球が後ろに押されます。眼の周りの骨は比較的薄く、眼球からの圧力で下側、内側で底が抜けるようにして骨折が生じ、結果的に眼球にかかる力を逃がします。「眼窩底骨折」では、眼球を動かす筋肉が骨折したところにはさまれて、物が二重に見えてしまいます。程度によっては手術が必要になります。もう一つは眼球への直接の打撲ではなく、眉毛の外側あたりを強打したときにおこる眼球の後方の骨折で、「視神経管骨折」といいます。この骨折では視神経が障害されて、眼からの情報が脳に伝わらなくなって見えにくくなります。神経が腫れるだけなら良くなる可能性もありますが、まったく断裂してしまうと回復しません。スポーツはけがのないように楽しみたいものですね。