ソフトコンタクトレンズの消毒
院長 廣辻徳彦
昨年12月、国民生活センターがソフトコンタクトレンズ洗浄・保存液について研究結果を発表しました。「洗浄から保存までを1種類で賄えるタイプのソフトコンタクトレンズ用消毒液の多くは、消毒力が不十分だった。複数の液を使うタイプは、一体タイプと比べると消毒性能が高かった。」というものです。また、この2月24日には厚生労働省が、「ソフトコンタクトレンズの消毒液は、レンズを漬けて置くだけでは殺菌効果が十分でないとして、こすり洗いなど適切な取り扱いをするよう」呼び掛けています。今回はこのソフトコンタクトレンズの洗浄について書きます。以下、コンタクトレンズはCL、ソフトコンタクトレンズをSCL、ハードコンタクトレンズはHCLと表記します。
現在日本では約1,500万~1,800万人がCLを装用しているといわれています。特に1991年に使い捨て型のSCLが発売されて以来急増し、HCLや従来型の1~2年使用するSCLはその割合が減りつつあります。一般に使い捨てと総称されているSCLも、厳密には1日、1週間装用して捨ててしまう「使い捨て型」、毎日はめはずしてケアを行い2週間で交換する「頻回交換型」、1カ月や3ヶ月で交換する「定期交換型」に分かれます。「使い捨て型」は毎回新しいレンズを使うので、洗浄液や保存液が不要です。「頻回交換型」と「定期交換型」は毎日レンズケースに入れて保存するのでケアが必要です。その昔、SCLは洗浄した後、専用容器に入れて煮沸消毒をしていました。旅行にもこの消毒セットを持って行かれた記憶のある方もいらっしゃるでしょう。
この煮沸消毒に変わり現れたのが、化学反応でCLを消毒するコールド滅菌と呼ばれる方法です。
コールド滅菌には「過酸化水素」や「ポビドンヨード」という薬品で消毒し、薬品を中和して装用するタイプと、マルチパーパスソリューション(以下MPS)という1本で洗浄と消毒ができるタイプがあります。前者は毎回顆粒や錠剤を溶解するという手間がかかるため、MPSの方が多く使用される傾向にあります。どちらも一般的な細菌に対しては一定の効果を示しますが、土壌などに生息し、角膜感染症(下図参照)の原因になる原生生物アカントアメーバの殺菌効果について、厚労省から効果が不十分であると公表されたということです。
SCLの素材も改良が進み、最近は汚れがつきにくい材質で作られたり表面にさまざまな加工が施されたりしています。しかし、どうしてもタンパク質や脂分などの汚れや細菌の付着などが生じてしまいます。消毒液に漬けておくだけで十分と説明書に書いてあるものもありますが、こういった汚れは物理的にこすり洗いするのが最も効果的な洗浄方法なのです。お鍋についた汚れをとるとき洗剤に漬けておくだけより、こする方が汚れをよく落とせるのと同じです。もちろん汚れた手で洗うのでは意味がないのでよく手を洗ってから、また力を入れ過ぎてはSCLを痛めるのでやさしく丁寧にこすり洗いするのが必要です。
もうひとつ大事なのが、SCLの保存ケースもきれいにしておくことです。ケース自体にも汚れが蓄積してしまうことがあるので、水道水できれいにこすり洗いして乾燥させる、一定期間で新品のケースに取り換えるなどの配慮がいります。CLというのは大変すぐれた矯正器具ですが、その使用法を誤ると失明につながる可能性もあります。たかがCLと考えず、気をつけてご使用ください。