虹彩炎-ぶどう膜炎-について
院長 廣辻徳彦
今月は虹彩炎(ぶどう膜炎)という病気について書いてみます。とはいうものの、結膜炎ならよく耳にしますがそもそも虹彩炎とはどのようなものなのでしょう。「炎」というからにはどこかが炎症を起こしているわけで、結膜の炎症なら結膜炎、虫垂の炎症なら虫垂炎というように、虹彩炎とは眼の中の虹彩という部分の炎症なのです。虹彩がどこかといえば、は写真に示すように茶目、黒目といわれる茶色いところです。白人なら青かったり緑色だったりすることもあります。外から見ると虹彩は角膜という透明な膜を通して観察できます。虹彩の中央には眼の中に光がはいっていく「瞳孔=ひとみ」があります。写真では向かって右側から細い光を当てているので、角膜に当たっている光がうすい弓状に見え(①)、虹彩の上には瞳孔以外の部分に光が反射しています(②)。虹彩は、外から入ってくる光の強さによって瞳孔の大きさを変え、眼に入る光の量を調節する仕事をしています。カメラでいうところの「しぼり」と同じ働きをしています。
左の図は眼の断面図です。小さくて申し訳ないのですが、虹彩は水晶体のすぐ前方(図でいえば左側)のところにあるピンク色のところ(③)です。図をよく見ると、ピンク色で示された虹彩は眼の後方(図でいえば右側)に向かってずっと続いています。水晶体の上下で少しふくらんでから薄くなるところ(④)、さらに後方の薄いところ(⑤)です。④を「毛様体(もうようたい)」、⑤を「脈絡膜(みゃくらくまく)」といいます。虹彩、毛様体、脈絡膜あわせて「ぶどう膜」といいます。ぶどう膜には色素と血管が多く、眼の中を暗室にする役割も持っています。
虹彩の説明が長くなってしまいましたが、虹彩はぶどう膜の一部分に当たるので、虹彩炎というのもぶどう膜の炎症である「ぶどう膜炎」という病気の一部であることがお分かりになるでしょう。ぶどう膜炎の前方型が虹彩炎、中間に起これば毛様体炎、後方に起これば脈絡膜炎という名前になり、2か所以上にまたがれば虹彩毛様体炎、汎(全)ぶどう膜炎ということになります。以下、虹彩炎を含めてぶどう膜炎として話を進めていきます。
ぶどう膜炎の原因はウィルス感染、アレルギー、外傷などですが、全身の病気である糖尿病や結核、ベーチェット病やサルイドーシス、他にもリウマチなどの自己免疫性疾患などさまざまな病気で生じることがあります。ベーチェット病、サルコイドーシス、原田氏病は日本人に多い「3大ぶどう膜炎」といわれています。ただ、やっかいなことにまったく原因が分からないこともよくあります。症状は充血、まぶしさ、疼痛、流涙、視力低下などで、痛みで目があけられない程度になることもしばしばです。結膜炎と違い、眼脂(めやに)はあまりでません。
治療にはステロイド剤などの抗炎症薬が使われます。点眼薬が中心ですが、内服薬や眼の周囲への注射、点滴が必要なこともあります。感染が原因であれば抗生物質や抗ウィルス薬も必要です。また、全身疾患が原因にあればその治療も必要になります。虹彩に炎症が生じるために、その影響で瞳孔が変形しないようにする点眼も必要です。ぶどう膜炎の後に、水晶体に白内障が生じたり、眼の中にある水(眼房水)の流れが悪くなって緑内障を起こしたりすることもあります。後方の脈絡膜炎では網膜に影響が出て視力低下してしまうこともあります。点眼薬だけでおさまる場合も多いのですが、再発を繰り返すこともあり注意が必要です。中には治療に抵抗して治りにくいことや、緑内障や網膜症のためにぶどう膜炎が治った後も元の視力に戻らないものもあります。数は少ないものの非常に進行が早くわずか数週間でほとんど見えなくなってしまうような病気もあるので、治療する側にとっても気の抜けないのがぶどう膜炎といえます。