加齢黄斑変性 その3
院長 廣辻徳彦
加齢黄斑変性について、その分類や検査について説明してきました。今回は治療について書いてみます。
これまでにも書いてきましたが、加齢黄斑変性とは脈絡膜新生血管が発生して生じる病気です(図1、図2、図3)。新生血管からの出血や網膜のむくみ(浮腫)などで網膜が傷んで視力が低下します。新生血管を消失させ、網膜をもとの状態に戻せればよいのですが、実際には完全にもとに戻ることはほとんどありません。治療の目標は、悪くなった視力や見え方をそれ以上悪化させないように維持する、あるいは少しでも改善させるというところです。
それでも、加齢黄斑変性の治療はこの10年で大きく進歩しました。病変部に直接行うレーザー治療や「黄斑移動術」という手術治療が数年前までは行われていました。しかし、網膜に与えるダメージなどのリスクが大きく、その治療を行うメリットが少なくなったので、今ではほとんど行われていません。
新生血管の発生には、血管内皮増殖因子(以下VEGFと書きます)というものが関係していると考えられています。現在第1選択の治療は、VEGFの働きを阻害するVEGF阻害薬によって脈絡膜新生血管を退縮させる方法です。現在認可されているVEGF阻害薬はマクジェンRとルセンティスRという2種類で、いずれも眼の中(硝子体腔)に6週あるいは4週ごとに注射します(図4)。治療効果は蛍光眼底検査やOCTで判定し、新生血管の活動が増えるような場合は繰り返して注射を行います。この治療法によって、現状維持以上の視力回復を期待できる可能性が出てきています。問題点があるとすれば、眼内に注射を繰り返すのでその際に菌が眼内に入る感染症、ルセンティスRは心筋梗塞、脳梗塞などの既往があると使えないこと、1本あたりの薬価が高いこと(マクジェンRは約12万円、ルセンティスRは約17万円でその1割や3割が本人負担)といえます。
VEGF阻害薬以外には光線力学療法(PDT)というものがあります。ビスダインRという光感受性物質を点滴し、その後に専用のレーザー光線を照射する治療法です。このレーザーは出力が弱いので正常な組織は傷めずに、光感受性物質を取り込んだ新生血管だけを退縮させる効果があります(図5、6)。治療を行う前に蛍光造影検査を行い、病変の大きさに合わせてレーザーの照射範囲を決定します。治療後48時間は強い光に当たると皮膚などに光過敏症などの合併症が起こることがあるので注意が必要です。光線力学的療法も一度で治療が終了するとは限りません。3ヶ月ごとに造影検査やOCTなどの検査を行い、再治療を行うかどうかを決めます。
以上加齢黄斑変性について説明しました。日本でも増加傾向にあり、しかも確実な治療がまだない病気です。早期発見と早期治療が最も有効ですので、格子模様が歪んで見えるなどの異常を感じたらまずご相談ください。また、タバコは確実にリスクを高めます。税金も高くなるこのご時世、禁煙をお勧めします。