眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e178

投稿日 2023年3月3日

「アイフレイル」を考える

院長 廣辻徳彦

「アイフレイル」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。アイ(眼)とフレイルという単語の造語なのですが、「フレイル」という言葉をご存知でない人もいらっしゃるかもしれません。身体の機能は年齢とともに衰え、本来の「健康」な状態から遠ざかっていきます。近年の高齢化は単に寿命が伸びたことだけを喜べばいいわけではなく、健康でなければ必ずしも幸福ではないということもあります。「フレイル」という言葉は「frality」という単語の日本語訳です。もともとは、1.(身体や心の)弱さ、もろさ、2.(人間が本質的にもつ)意志の弱さや誘惑への弱さ、3.(人間の意志の弱さからくる)弱点、欠点、短所(fralities)という意味の単語です。

2014年5月に日本老年医学会が「加齢により生理的予備能力が低下し、様々な外的要因、ストレスに対する脆弱性が高まった状態」を「フレイル」と呼称することを提唱し、今ではfralityの新しい訳語として受け入れられるようになっています。その関係は図のように考えられていて、フレイルを予防して要介護になりにくくすることが健康寿命につながると言えます。
眼においても加齢とともに白内障は必ず発症し程度の差はあれ視力が低下しますし、網膜や視神経の働きも衰えてそのような病気のリスクも上がります。人が得る情報の約8割が眼から入ってくると言われています。加齢によって身体能力が低下した上に、眼の働きも低下して情報が得られにくくなればさらに状況が悪化します。そこで、日本眼科学会と日本眼科医会と関連団体が「日本眼科啓発会議」というものを立ち上げて「アイフレイル」という言葉を作りました。「加齢に伴って眼の脆弱性が増加することに、様々な外的ストレスが加わることによって視機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態」を「アイフレイル」と定義しています。
もともとは「健康な眼」であっても生活習慣や喫煙、紫外線の影響、薬剤など「外的要因」と、高度近視や狭隅角などの構造的な眼の素因、糖尿病、高血圧、高脂血症などの全身的素因、遺伝的素因などの「内的要因」が「加齢に伴う変化」に影響を及ぼします。「加齢に伴う変化」は血管の脆弱化、水晶体の混濁(白内障)、網膜神経細胞の減少、角膜内皮数の減少といった「形態・構造的な変化」と、調節力の低下(老眼)、コントラスト感度の低下、収差の増大などの「機能的変化」に分けられますが、具体的には視力や視野が衰えたり、物が歪んで見えたりという自覚症状で現れ、これが「アイフレイル:視機能の衰え」ということになります。アイフレイルのため情報が得られにくくなると心理的ストレスが増え認知機能に影響が出る「心理的・認知的フレイル」が問題となり、就労や外出の機会も少なくなって社会的な付き合いも減ってしまう「社会的フレイル」や、移動することも少なくなれば筋力の低下をきたす「身体的フレイル」の原因にもなります。これらがさらに進んでしまうと、「自立機能の低下、日常生活の制限」ということを引き起こし、健康寿命の低下につながることが懸念されます。どうしようもない身体の変化もありますが、早めの治療で機能回復が得られる場合もありますので、意識を持つことを心がけたいものです。私がまだ病院に勤務していた頃ですが、車椅子で来院された視力の悪い患者さんで、受け答えも活発でなかったためにご家族の方も最近認知症かと心配されていた方に白内障手術をさせていただいたことがありました。手術後にその方が笑顔で歩いて来院されて、とてもよく話をされるようになっていて驚いたことがありました。極端な例ではありますが、「見える」ことが大事なことだと確認できた経験でした。
アイフレイルの啓発サイトでは、1. 目が疲れやすくなった、2.夕方になると目が疲れやすくなる、3.新聞や本を長時間見ることが少なくなった、4.食事の時にテーブルを汚すことがある、5.眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった、6.まぶしく感じやすい、7.まばたきしないとはっきり見えないことがある、8.まっすぐの線が波打って見えることがある、9.段差や階段が危ないと感じたことがある、10.信号や道路標識を見落としたことがある、の中で2つ以上チェックされた場合には眼科医にご相談くださいと書いています。他にもいろいろなチェックツールの紹介もしているので、一度パソコンで「アイフレイル」と検索されてみるのもいいと思います。「健康で長生き」が理想ですね。(今回の図と内容は日本眼科啓発会議のHPから引用し、参考にしています。)