眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e177

投稿日 2023年2月7日

春季カタル

院長 廣辻徳彦

2月はスギ花粉の飛散が始まる季節であり、花粉症のある人にとってはこれからが憂鬱な季節です。ちなみに、花粉症の3大症状は「くしゃみ、鼻水、鼻づまり」で、「目のかゆみ」を入れて4大症状とも言われます。これまでもアレルギー性結膜炎については書いてきましたが、今回は重症のアレルギー性結膜疾患である「春季カタル」の紹介をします。名前に「春季」とありますが、春にしか出ない病気ではありません。冬には花粉などの飛散が少なく、春になる季節の変わり目に症状が出やすいので春季と名がついたのかもしれません。「カタル」も聞きなれない言葉ですが、カタルとは「粘膜で腫脹(はれ)が生じ、滲出(粘液や分泌物が出てくるような状態)を伴う炎症の状態になる」ことを指します。通常のアレルギー性結膜炎でも我慢できないかゆみを感じますが、それよりも激しいかゆみと他の症状が引き起こされます。おさらいですが、アレルギー性結膜炎では花粉やハウスダストなどの抗原に反応して、体内でIgE抗体というものが作られます。その抗体と結合した肥満細胞がさらに侵入してきた抗原と反応し、ヒスタミンなどの化学物質が放出されてかゆみや充血、粘膜の腫れなどが引き起こされます。治療に使われる抗アレルギー剤はヒスタミンの働きを抑える作用(=抗ヒスタミン作用)や、肥満細胞の働きを抑制したりする作用でアレルギー反応を抑えます。症状が治まりにくい時にはステロイド剤を併用します。
春季カタルは重症のアレルギー性結膜炎と言えます。普通のアレルギーでも白目の表面の結膜(球結膜)やまぶたの裏の結膜(瞼結膜)が腫れるのですが、春季カタルでは特に上方の瞼結膜に特徴的な石垣状の隆起病変(石垣状乳頭増殖:下図2)が生じます。さらに黒目(角膜)と白目(球結膜)の境目に沿ってぐるりと盛り上がって腫れる所見(下図4)が出ます。角膜の表面にもびらんや潰瘍といった上皮障害(一番表面の部分に傷ができるような状態)が起きることもあるので、かゆみを通り越して「痛み」を感じるようになり、目が開けられないほどになることもあります。春季カタルが起こりやすい年齢は小学生から思春期はじめくらいで、男の子に多いとされています。思春期を過ぎてくると自然に治ってくる傾向が多いのですが、もともとアトピー性皮膚炎などがある人の場合は、大人になっても症状が続くこともあります。
春季カタルの治療も基本的には抗アレルギー剤を用います。ただ、通常のアレルギー性結膜炎よりも症状が強いことが多いのでこれだけで改善することは少なく、ステロイド剤の点眼や場合によっては内服や結膜下注射も用いられてきました。最近ではシクロスポリンやタクロリムスという免疫抑制剤(ステロイド剤も抗炎症作用とともに免疫抑制作用を有しています)の点眼薬が使用できるようになり、以前よりは症状を改善しやすくなったように思います(下図3:図2の治療後)。ステロイド剤には長期間使用すると眼圧上昇などの副作用が出てくることもあるので注意が必要ですが、眼科的な症状のみでステロイド剤を内服したり注射したりまですることは少なくなった印象です。免疫抑制剤は点眼時にかなり刺激感が強かったり、長期に使うとヘルペスなどの感染症を誘発したりすることもありますが、ステロイド剤より効果的であることが多く、最近の治療指針では、春季カタルに対して抗アレルギー剤→免疫抑制剤→ステロイド剤の順でステップアップする傾向になっています。春季カタルも特に重症になると、結膜の石垣状乳頭増殖で物理的に擦られる角膜に障害が起きて角膜潰瘍や角膜プラーク(角膜に白い沈着物がたまる状態)などができ、視力に影響することがあります。どうしても薬物治療だけで軽快しない場合に、巨大乳頭を外科的に切除したり、角膜の状態を改善するために角膜プラークの除去を行ったりもしますが、最近ではこのような外科的(物理的)治療が行われることは少なくなっています。
アレルギーの子供さんで痛みの症状が続いたり、角膜周囲の充血が強かったりする場合にはご相談ください。