網膜について
院長 廣辻徳彦
眼球はわずか2.5cmほどの小さな球体ですが、その中に外部からの光を取り入れて脳に伝達するための機能を備えています。デジタルカメラ世代には馴染みが薄いかもしれませんが、眼は光学式カメラと似たような構造をしていて、カメラと眼球では「レンズ=角膜と水晶体」、「絞り=虹彩」、「ピント合わせ=毛様体筋」、「フィルム=網膜」のように対応しています。カメラであればフィルムを現像して印画紙に焼き付けて写真が出来上がるところを、人の身体では網膜から視神経を経由した情報が脳で処理されて映像として感じられます。今回は、フィルムにあたる網膜という組織について詳しく書いてみます。
網膜は眼球壁の内層で、一番外側で眼球の外壁でもある強膜、血管や色素が豊富な中層の脈絡膜に接していて、眼球後半の約3分の2を占めるドーム上の膜構造をしています。下図(左)では矢印のオレンジ色の薄い部分が網膜、一番外の緑色の膜が強膜、間のピンク色のところが脈絡膜(図では毛様体と虹彩とが一体になって書かれていますが、黒線のところまでの網膜に接している部分が脈絡膜)です。網膜は角膜や水晶体を通ってきた光の情報をいくつかの種類の細胞で処理し、最終的に脳へ神経線維(ニューロン)を通して伝える働きをします。網膜の中心部には黄斑部(白矢印)と呼ばれるところで、この部分には特に視力に関係する細胞が多く存在しています。網膜の中は10層の層構造になっていて、内側の9層は「感覚網膜」、外側の1層は「網膜色素上皮」と呼ばれています。感覚網膜の9層は光を感じる細胞やその神経線維などでできている透明の膜で、一番外側から「視細胞層」、「外境界膜」、「外顆粒層」、「外網状層」、「内顆粒層」、「内網状層」、「神経節細胞層」、「神経線維層」、「内境界膜」という構造です。網膜色素上皮はメラニン色素に富んだ黒い膜状の組織です。下図(左)の四角で囲んだところの黄斑部の断面図を中央に示します。OCTという器械で撮影されたものです。くぼんでいるところが黄斑部で図の上が内側です。3本の白い線とその上に薄い線が見えると思います。一番下の線が網膜色素上皮で網膜の外側です。薄い線が外境界膜でその間の2本線を含む部分が視細胞層に当たります。外境界膜(薄い線)の上の少し幅の広い黒い部分が外顆粒層です。外顆粒層には視細胞の核が集まっています。そこから上に向かって幅の狭い白みがかった部分、黒い部分、少し白い部分と続き、それぞれが外網状層、内顆粒層、内網状層に当たります。その上には僅かに黒くなっている幅の広い層(わかりやすいように黒線を引いています)と一番内側にある白い部分とがあり、それが神経節細胞層と神経線維層です。内境界膜は一番内側にあるのですが、薄いので少しわかりにくいところです。参考に右に網膜の写真もつけておきます。
さて、網膜に入ってきた光はどのような経路を辿って伝わるのでしょう。角膜と水晶体が光を屈折させてピントのあった像を網膜に写しますが、目の中にある硝子体という液体も全て透明です。透明なところはレンズなどの屈折の影響を受けますが光は素通りしてしまうので映像としては認識されません。網膜も感覚網膜と言われる内側の9層は透明なので光は素通りしてしまいます。光が初めて吸収されるのは黒い部分、網膜色素上皮というところになります。そこで得られた光の情報を視細胞が感じます。黄斑部には錐体という形や色に敏感な細胞、周辺部網膜は明暗に敏感な桿体細胞があり外からの情報を内顆粒層に核を持つ水平細胞や双極細胞という細胞に伝えます。その情報を伝えるために連絡する部分(シナプス)が外網状層です。水平細胞や双極細胞は、連絡部分となる内網状層を通して神経節細胞に情報を整理して伝えます。最後に神経節細胞から出てくる神経線維(ニューロン)が集合して視神経を形作り、脳へ情報伝達をします。一番厚いところでも0.5mmにも満たない網膜ですが、多くの細胞が働いて物を見ることに役立ってくれているのです。