疲れ目を考える
院長 廣辻徳彦
毎日の外来に、「疲れ目」の症状をおっしゃって来院される方は多くいらっしゃいます。疲れ目の症状は、「疲れ」というものが主観的であるため、目が「疲れる」、「重い」、「しょぼしょぼする」、「奥が痛い」、「長い時間開けられない」、「乾く」、「見えにくい」などさまざまに表現されます。目の疲れだけでなく肩こり、腰の痛みや疲労感など、身体全体やそれぞれの箇所の違和感を訴える症状は、単純な疲労だけでなくいろいろな病気が原因で引き起こされることもあります。「疲れやすい症状があったので検査をしたら白血病だった」、ということが全くないわけではありませんし、緑内障でも疲れ目に似た症状が出ることがあります。「疲れ」の症状は軽視して良いものではありません。今回は難しい病気との鑑別ではなく、いわゆる「疲れ目」について考えてみます。
私たち人間は、8割以上の情報を目から得ています。考え事をしていて目に映っているものを認識していない時もありますが、起きている(目が醒めている)間中、目は常に何かを見ています。いつも使われている状況下にあれば、使えば使うほど疲れるのは仕方がないところです。もともと私たちの目は、遠くを見るときに自然にピントが合うようになっています。近くを見るときには、毛様体筋という筋肉が水晶体に働いてピントを調節しています。パソコンや細かい手仕事など意識的に物を見るという環境下での作業が多くなると、毛様体筋が筋肉疲労を起こして疲れ目が起こってきます。また、40代半ばを過ぎると必ず老眼(=老視)になります。老眼はピント調節の力が弱まってきて生じるのですが、老眼鏡を使わずに無理をし続けると目に負担がかかり疲れてしまいます。このような「目の酷使」が疲れ目の原因になると考えられます。もう一つ疲れ目の原因となるものが、「目の乾き」です。普段私たちの目の表面は涙に覆われています。涙には水分だけでなくムチンという物質が含まれていて、角膜の表面をなめらかに保っています。涙に異常があり乾きやすくなってしまう状態の典型がドライアイです。ドライアイでなくても、ヒトはものを凝視していると自然にまばたきが減るという性質を持っています。見ていることに集中している時には気にならないこともありますが、作業の時間が長くなると表面が乾くことで視力が不安定になり、それをピント合わせで補おうと調節力が働きすぎて疲れを感じることになってしまいます。
「目の酷使」と「目の乾き」が疲れ目の主な原因になっているとすれば、出来るだけそれを避けることが疲れ目の対策になります。とても単純なことと言ってしまえばそれまでですが、以下のことが重要になります。
・身体のバランスを考える。:食事、睡眠をとり規則正しい生活を送る
・パソコン作業やデスクワークなどの仕事は無理のない姿勢で行う。30分に5分休憩など休息をとる。
・メガネやコンタクトレンズが必要なら正しい度数のものを使用し、40代以上になれば老眼鏡を検討する。
・乾きを感じやすい場合には、感じる前から人工涙液や角膜保護剤の点眼を定期的に使用しておく。
現代人が目を使わずに生活や仕事をすることは不可能です。しかし、身体の疲れに薬を1錠飲むだけでとか、目の疲れに点眼薬を1滴指すだけで一瞬に回復させる方法はありません(できたら魔法です)。疲れた場合には目を休めるようにした上で、以下の方法を行えば回復が早まるかもしれません。
・目やその周囲を温める。血行が良くなり、涙のバランス改善にも役立ちます。そのような商品もあります。
蒸しタオルを使う場合はビニール袋に入れるなどして目の周囲を濡らさないように気をつけましょう。
・ビタミンB12やネオスチグミンメチル硫酸塩などの点眼を使用する(すぐに治るわけではありません)。
目を上下左右に動かす、目をぐるぐる回す、何回かぎゅっとつむるなど目のストレッチをすると良いという記事を読んだこともあります。科学的根拠はないと思いますが、視線がパソコンなどから離れ、目の周囲の筋肉を動かすことで血行改善効果が期待できる可能性はあるでしょうから、行う意味はあると考えます。また、同じ姿勢で作業をしていると身体も疲れてしまい肩こりや腰痛の原因にもなります。目と肩こりには、「目が疲れたから肩がこる」とか「肩がこったから目が疲れる」という親子関係ではなく、「疲れている時は疲れ目も肩こりもある」という兄弟関係があるので、時々は身体もストレッチしてあげるのがいいでしょう。目の周囲のマッサージもいいかもしれません。眉毛の下方の骨のやや内側と下まぶたの骨の中央部やや下方にはいわゆる「ツボ」があるので、その周囲などをマッサージすると楽になるようです。その際には眼球を圧迫しないようにしてください。
今回は文章だけで読みづらく、疲れ目の原因を作ってしまっていたら申し訳ありません。