眼科のレーザー治療(その1)
院長 廣辻徳彦
昨年来、当院のレーザー治療装置で使用する顕微鏡の具合が悪くなり、治療が必要な患者さんにわざわざ他の病院に行っていただく事例が続きました。天井を開けて電気の配線工事を行ったり、機器の点検をしたりしたあげく、結局は電源コードからの配線に初期不良レベルの異常があったことがわかりました。現在は顕微鏡が使えるようになったため、やっとレーザー装置がその実力を発揮できるようになっています。
レーザーは、「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放射による光の増幅)」の頭文字をとって「Laser;レーザー」と呼ばれます。指向性(直進性)が強くほとんどまっすぐに進む、単色性であり一つの波長からできている、波長の山と谷が揃っていて可干渉性を持っているという光だそうです。物理が苦手な私には詳しく説明できませんが、今や医療全般の診断、治療にレーザー技術は欠かせないものになっています。眼科では、①網膜に対するレーザー治療、②緑内障に対するレーザー治療、③角膜、水晶体など屈折矯正に関するレーザー治療があり、レーザーの種類や出力などの条件を変えて利用されています。
①網膜に対するレーザー治療
網膜に対しては糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜裂孔、黄斑変性症、中心性漿液性脈絡網膜症などの治療にレーザーが用いられています。従来アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ダイ(色素)レーザーという種類の機器が使用されてきました。最近はレーザーの波長が532nm(ナノメートル)のグリーンレーザーや、それに577nmの黄色レーザー、647nmや659nmの赤色レーザーを組み合わせたマルチカラーレーザーという半導体レーザーが普及しています。糖尿病網膜症や静脈閉塞症では血管に異常が生じて血流が悪くなる結果、網膜に酸素不足が起こります。それが続いて酸素不足の網膜の部分(無血管野と言います)が広範囲になると、血流不足を改善するために急ごしらえの新生血管ができてしまいます。この新生血管は急ごしらえだけあって、出血を繰り返したり増殖したりしてさらに状態を悪化させていきます。そこで無血管野をレーザーで凝固し、そこを犠牲にする代わりにそれ以上その部分に酸素が必要ない状態にし、新生血管の発生を抑えたり増殖を抑えたりする治療を行います。新生血管を直接レーザーで焼いて、血管を潰して出血を防ぐこともあります。病気の程度が強い、すなわち無血管野が広くなるとレーザーを行う範囲も広くなるので、レーザーをした後、その部分の視野が暗くなったり暗いところで歩きにくくなったり(夜盲)という現象が起こることもあります。網膜裂孔は近視などで網膜に薄くなったところがあったり、40-50歳以降に起こる後部硝子体剥離という現象に伴ったりして、網膜に裂け目ができてしまう状態です。放置すると網膜剥離につながります。網膜裂孔に対しては、その周囲をレーザーで凝固して網膜剥離を起こさせないように治療します。
どちらの場合も高出力のレーザー光線が網膜に当たり、そこでエネルギーが発生して小さな「やけど=凝固斑」を作ることになります。正確には、左図に示すように緑色の矢印のレーザー光線が、網膜の一番外側にある「網膜色素上皮」というところで吸収され、黒い丸で囲まれた部分に「やけど」を作る仕組みです。その部分は次第に、やけどやケガの後皮膚が硬くなるのと同じように瘢痕化し、酸素を消費しなくなることで新生血管の発生を防止し、あるいは周囲組織と固く結びつくようになります。中央図は糖尿病網膜症でレーザーをした後に、また新生血管(白矢印)が生じた患者さんです。凝固斑は黒矢印でこの図では3つだけしか示していませんが、この写真だけでも凝固斑は何十個かあります。右図は網膜裂孔に対するレーザーです。裂孔の周囲に白く見えるのが凝固斑で、時間が経つと中央図のような色の凝固斑になっていきます。(次回に続きます。)