視覚障害に対する支援
院長 廣辻徳彦
今回はいろいろな目の病気の中で、治療の難しい病気や突然の目をケガなどで治療を受けたにも関わらず転帰が思わしくない場合の支援について記載したいと思います。最近は「障害」の「害」の字の印象が良くないので、「障碍」という字を使用したり、「障がい」とひらがな表記したりすることが多くなっていますが、法律の文章に「障害」とあるので、「害」の字で記載させていただきます。本来見えたはずの状態に戻りたい、戻したいのは当然ですが、実際にはそうならないことが残念ながら存在します。病気やケガが身体のものであれば命に関わる場合もありますが、目の病気は身体が元気であることが多いので、それからの先の生活のことを考えなければなりません。人の生活において、情報の8割は目から入ってきていると言われています。徐々にでも突然にでも目が見えにくくなってしまうと、残りの力で生活していかなければならなくなります。気持ちは簡単に切り替えられませんが、福祉政策からの支援、社会生活に復帰するための支援を利用していただきたいと思います。
福祉政策では、障害者支援法に基づく障害者手帳の交付が行われています。障害者手帳には身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類があり、身体の機能についての障害に対しては身体障害者手帳が交付されています。身体障害の中には、心臓機能(ペースメーカー等植え込み者)および肢体不自由(人工関節等置換者)、聴覚障害、小腸機能障害など11項目の分類があるのですが、その中に「視覚障害」があります。視覚障害の認定は、さらに視力障害と視野障害に分かれています。視力障害は1級から6級まで、視野障害は2級から5級までに分類されていて、それぞれに詳しい分類表があります。分類表は紙面の都合で載せませんが、例えば視力障害の1級は、「視力の良い方の眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異常のある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ)が0.01以下のもの」という定義になっています。これは、「良い方の目の視力がどのような眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正しても0.01以下で、悪い方はそれ以下の視力である」ということです。視野障害の場合もゴールドマン視野計や自動視野計を用いて認定されることになっています。身体障害にはそれぞれの級に点数(1級18点、2級11点、3級7点から6級1点)があり、視力障害と視野障害が同時にある場合はそれを合算して身体障害の認定を行います。例えば視力障害で2級(11点)、視野障害で3級(7点)の障害があれば、合算して18点となり1級の障害に認定されます。
身体障害の認定には市町村の窓口で身体障害者診断書・意見書の用紙を受け取り、それに行政の首長が指定する診断医が記入します。障害を持つようになった場合、支援するサービルを受けることをためらう必要はありません。程度によっても異なりますが、医療費の軽減措置、税金の軽減措置、交通機関の割引サービス、必要な補装具の交付や、障害者雇用枠での就労などがありますので、お住いの市町村の窓口にお尋ねください。
目から得る情報は生活の上で大きな役割を果たしていて、世間も見えることが前提で動いています。視覚障害者が道路の段差でつまずいたり、電車のホームから転落したりということは残念なことに珍しくありません。鉄道会社もホームの転落防止柵の設置に取り組みだしましたが、全ての駅に設置されるにはまだまだ時間がかかりそうです。自立して歩いているように見えても、視覚障害があると人混みを歩くのはかなり困難です。視覚障害者の多くは見た目が普通なので気づかれにくいところがありますが、周囲に認識してもらう意味でも白杖を持つことに意味はあります。社会参加のために視覚障害リハビリテーションを行う施設があります。大阪市にある日本ライトハウスでは、1965年に設立された当初から歩行訓練、点字・カナタイプなどのコミュニケーション訓練、身辺処理や調理などの日常的な生活動作訓練等の「社会適応訓練(生活訓練)」とよばれるトレーニングを始め、現在も障害者支援、障害者福祉サービス、職業訓練などの部門で自立や社会参加の支援をしてくれています。神戸にも国立障害者リハビリセンターの神戸視力障害センターがあり、就労や自立に向けての訓練をサポートしてくれます。一人で外出が難しい場合には、病院や買い物への同行(移動の援助や代読、代筆など)について、障害者総合支援法における「同行援護」をガイドヘルパーさんに補助してもらえる制度もあるので活用していただきたいです。
当院の受付にはライトハウス宛の募金箱が設置してあります。父の時代から数十年にわたって数多くの方がご寄付をくださっていて、本当にありがたく思っています。コロナの時期ではありますが、道や駅でお困りの様子の視覚障害の方がいらっしゃれば、声をかけてあげていただきたいと思います。