白内障の見え方−術前・術後(その2)
院長 廣辻徳彦
台風や地震などで大変だった9月ですが、最後に台風24号がやってきました。大きな被害が出ないように祈るばかりです。前回は白内障について、簡単に分類や症状を紹介しました。白内障は色々な原因で生じますが、特別なケガや被曝などということが起こらない限り、加齢という要因が最も作用します。白内障になるのを避けるために紫外線ブロックのサングラスをするのは間違いではありませんが、年齢による影響に比べればその効果はごくわずかです。白内障では「ものが歪む」、「視野が欠ける」ではなく、「まぶしい」、「かすんで見える」という症状が特徴的です。以前のマンスリーでもご紹介したように、白内障の進行を止めたり改善させたりできる薬物はありません。治療としては「手術」一択です。手術の説明をする回ではありませんが、一般的には手術の時期が遅ければ遅いほど、手術が難しくなったり合併症が増えたりします。不自由のない状態で手術を急ぐ必要はありませんが、日常生活で見えにくさが気になる、年齢的に手術を行うのが不安、という場合にはそう感じた時点、年齢的に余裕のある時に手術を考えるのが適当かと考えます。もちろん、手術を決断するのは簡単な話ではありません。手術そのものへの不安もありますが、手術後にどう見えるかも心配の種になるところです。
白内障の手術後の視力回復は、ほとんどの場合「期待に沿う」ことが多いと思います。手術に至るまで、おそらくは10年以上という時間が経過しているはずなので、自分ではそこまで進行していないと思っていても、手術後わずか1日で10年以上前の視力に戻ることになるからです。「掃除をしていたつもりでも部屋の隅にゴミが溜まっていたのに気づいた」とか、「テレビが新品のように見えた」とかいう感想を聞くとうれしく思います。しかし、期待ほどではなかったとおっしゃる声も少数ながらあります。これにはいくつかの理由が考えられます。濁った水晶体が透明な人工レンズ(眼内レンズ)に入れ替わっても、網膜や神経など他の組織の働きは変わりません。手術が成功しても、若い頃と同じように見えるという期待に届かないと感じてしまうのかもしれません。また、白内障以外の病気(黄斑変性症や緑内障など)がある場合、それによる障害は白内障手術では改善できません(術前よりは明るくなっていることがほとんどではあります)。同じ結果であっても、「これだけ良くなった」と思うか、「この程度しか良くならなかった」と思うかは、その人の感じ方にも左右されます。手術をさせていただく側としては、できるだけ感じ方に齟齬が生じないように十分な説明をさせていただきたいと考えています(コップに半分「も」水がある、とコップに半分「しか」水がない、は同じことですがそれと似ていますね)。
健康保険が適応されている眼内レンズは、「単焦点レンズ」というタイプのレンズで、強い乱視がある場合に使用される「乱視矯正用眼内レンズ」にも保険適応があります。白内障の手術は水晶体というレンズを眼内レンズに入れ替えることで、近視、遠視、乱視という屈折異常を改善できるチャンスです(当院ではどちらのレンズも使用しています)。手術後の屈折度にはわずかな誤差が出ることがあり、その誤差が満足度に影響を与える原因となることもあります。ちなみに、患者さんの負担には差はありませんが、納入価格に差があるので乱視用眼内レンズを使用できない施設もあります。保険適応のない「多焦点眼内レンズ」は、非常に良いと思う方が多い一方で、少ないながら一定の割合で結果に満足できずに再手術を余儀なくされる場合があるので、よく説明を聞いてください。
眼内レンズにも色があります。従来の眼内レンズは無色透明でしたが、手術後に蛍光灯の下で見るような色の感覚(青っぽく見える状態=青視症)が生じ、LEDなどの網膜に影響を与える青色光が透過しやすく「黄斑変性症」の一因となる可能性もあるという問題が指摘されていました。最近は黄色い着色眼内レンズが広く使用され、より自然な色の見え方で黄斑変性症のリスクも低下するのではないかと考えられています(当院では全例に着色レンズを使用しています)。手術後の見え方についての満足度は大事なことなので、よくご相談ください。
図は左から、無色眼内レンズ(背景が青)、着色眼内レンズ、通常の風景写真、青視症のイメージ写真