白内障の見え方−術前・術後(その1)
院長 廣辻徳彦
暑い日が続き、台風も多く発生した8月も過ぎ、9月になりました。9月は英語でセプテンバー:Septemberですが、「septem」はラテン語で「7」を指す数字です。なぜ「7の月」が「9月」なのでしょう。古代ローマでは1月と2月に相当する月に名前がなく、12ヶ月のうち、3月から12月までを1から10の数字で名付けたそうです。しかし、紀元前700年代に名前のなかった2ヶ月が神様の名前から命名され、従来1の月(3月)から6の月(8月)であった月の名前も、神様や皇帝由来の名前に置き換えられたということです。7月のJulyがJulius Caesar(シーザー)、8月のAugustがAugustus Caesar(アウグストゥス)に由来するのはご存じかと思います。歴史だけでなく生活に関連する月に名を残すことは、皇帝クラスでないとできないことなのかもしれません。
皇帝でも私たちでも同じように病気になります(生活や経済的な環境によって病気の罹患率や治療に差が出てくるという事実はありますが)。先日亡くなられたさくらももこさんも乳がんでしたし、たくさんの有名人も病気になっています。眼で言えば、刑事コロンボのピーター・フォークさんは片方が義眼でした。伊達政宗は天然痘で片眼が失明し、画家のルノワールやモネが白内障であったということをご存知の方も多いと思います。前振りが長くなりましたが、今回は白内障の術前・術後のものの見え方について書いて見ます。
白内障は、眼内の水晶体というレンズが混濁して見えにくくなる病気です。眼のケガや様々な病気(全身的には糖尿病など、眼の病気ではぶどう膜炎など)、長期に渡るステロイド剤の服用などによる薬の副作用、放射線の被曝でも起こりますが、全ての人に加齢で生じます。症状の有無を無視すれば、60歳を過ぎれば誰にでも起こると言えます。白内障では痛くも痒くも感じませんが、「見る」ことに関して症状が出ます。初期には「まぶしさ」、進行すると「見えにくさ」が代表的な症状と言われます。中央の核というところから濁る核白内障、周囲の皮質から濁る皮質白内障、後ろの膜付近から濁る後嚢下白内障という分類や、進行度による分類があります。
皮質白内障は濁りに筋状のムラがあります。初期には光が均一でない濁りのせいで散乱してまぶしく感じます。白熱灯よりも蛍光灯やLEDの青白色の光でよりまぶしく感じるようです。夜間、対向車のヘッドライトがまぶしく見えるようになって気がつくこともあり、光の入ってくる方向で自覚症状に差が出ることもあります。光の散乱はコントラスト感度を低下(本来濃いはずの文字が薄くにじんで見える感覚)させ、室内での視力検査での数字はそれほど悪くないのに「かすむ」感覚が強くなります。特に夜間の信仰や街灯の光が花火のような筋を作る「グレア」や、光の輪郭がにじむ「ハロ」という見え方(下図左:車)になることもあります。核白内障では、水晶体の中央部が凸レンズのような形で濁るため、屈折率に変化が生じ従来よりも近視化する傾向が出ます。後嚢下白内障では、光の通る中心部に濁りが出るので、比較的早期から視力低下を自覚します。明るい屋外では瞳孔が小さいために濁りが占める面責が大きくなり見えにくい、室内絵は瞳孔が大きいので濁りの相対面責が小さくなりまだ見えやすいという症状も特徴的です。タイプは重複することもよくあり、放置すると濁りが強くなって、まぶしさや色の不具合だけでなく曇りガラスを通して見るぐらいまでかすむことになります。また、実際の白内障ではやや黄色味を帯びて濁るため、短波長である青色系の光が通りにくくなり、モネの「睡蓮」の絵を見てみると、色彩あふれた色使い(下図中央:1899年頃)だったものが、晩年には輪郭のぼやけた黄色や茶色主体の色合いの絵(下図右:1920年頃)になっていることが、白内障のせいであると説明されています(次回に続きます)。]