視力についてあれこれ(その1)
院長 廣辻徳彦
毎年のことではありますが、1月はあっという間に過ぎてもう2月です。今年は4年に一度の冬季オリンピックイヤー。北の「あの国」に関してなどいろいろ心配な話題もありますが、純粋にスポーツが楽しめればよいなと思います。さて、よく「スポーツ選手は動体視力が優れている」ということを耳にします。動体視力とはどういう視力なのでしょうか。また、視力検査で測定されている視力とはどのようなものなのでしょうか。これまでマンスリーで詳しくご紹介したことがなかったので、今回は「視力」についての記事にしたいと思います。
病院で測定する視力は、座った(静止した)状態でCの字の形をした動かない指標(=ランドルト環)を見て、開いている方向を答えます。これを特に静止視力(Static visual acuity:SVA)と呼び、一般的に「視力」といえばこれのことを言います。これに対して、動いている物体について、視線を外さずに見続けて識別する能力を動体視力(kinetic visual acuity:KVA)と呼んでいます。動体視力はさらに横方向動体視力(dynamic visual acuity:DVA)と、前後方向動体視力(Vertical kinetic visual acuity:VKVA)とに分類されています。スポーツ、特に球技に関する能力は動体視力と密接な関係があると言われています。同じ「視力」という文字が使われていますが、動体視力と静止視力は全く別のもので、「静止視力がよい」=「動体視力がよい」という訳ではありません。
ここからは、視力(以下、単純に「視力」という時は静止視力と考えてください)とはどういう単位なのかを考えてみます。視力測定は、ランドルト環のすき間を見分けられるかどうかを検査しています。ランドルト環のすき間を見るときに、そのすき間と眼との間にできる角度を「視角」といいます。
5メートル離れたところから、外径が7.272ミリ、線の太さとすき間の間隔が1.454ミリのランドルト環を見るときにできる「視角」は1度の1/60に当たる「1分」という角度となります(この「分」という単位は、気象情報でも北緯35度30分などという形で使われています)。視力の定義では、このすき間を見分けられるのが正常の状態の視力と考えます。
視力は、「視力=1/視角」と定義され、上記の条件で視角が1分の場合は視力1.0(正常)、2分の場合は0.5、10分の場合は0.1となります。ランドルト環の大きさは視角と比例するので、1.0の指標を基準にすれば、0.5用は「全体の直径もすき間も線の太さ」も2倍、0.1用は全て10倍の大きさとなります。0.1の指標が5メートルから見えない場合は、50センチずつ近づいて0.09から0.01まで測定し、50センチからでも見えない時には指の数(指数弁)、手の動き(手動弁)、光(光覚弁)を用いて測定します。日本ではランドルト環を用いて測定し、視力を「1.0」や「0.2」で表す「小数視力」が一般的です。アメリカなどではアルファベット文字を用いる「スネレン指標」、「E」の文字だけを用いる「Eチャート」が使われています。また、視力も「20/20」や「6/6」で表す「分数視力」が一般的です。分子は検査距離、分母はその指標を視力が正常な人(=1.0の人)がかろうじて読める距離です。距離の単位はアメリカならフィート、それ以外ではメートルですが、単純にこの分数を計算すると小数視力と同じ値になります。
単純な小数であれば1.0と0.9、0.2と0.1を比較した時に、その差は同じ「0.1」です。しかし、視力の1.0と0.9、0.2と0.1の間の「0.1」は同じものではありません。視力は「1/視角」という計算で導かれる値なので、視角と視力の値は反比例することになります。グラフの縦軸が視角の値、横軸が視力の値です。
グラフに示す、①のところでは、視力が0.1と0.2を比べると、視角の差が2倍なのでランドルト環の大きさが2倍になっていることを示しています。しかし、②の視力0.9と1.0のところでは、視力の差は「0.1」なのに、視角は1.1分と1分なのでランドルト環の大きさはわずかに1.1倍しかない(図が小さすぎてすみません)ということを示しています。視力1.0が0.9に下がるのと0.2が0.1に下がるのとでは大きな違いがあるということになります。
動体視力などについてなどは次回に続きます。(今回はニデック社のHPから図を引用しました。)