眼とカビについて(真菌症)
院長 廣辻徳彦
梅雨に入ってジメジメとした天気が続いています。梅雨といえば「カビ」、気をぬくと青いのやら黄色いのやらが生えてきてしまいます。カビは真菌という微生物の一種です。真菌はカビ(糸状菌)、酵母(酵母菌)、キノコ(担子菌類)という種類に分類されていて、真菌の中には、美味しいキノコや抗生物質の元となる青カビなど有用なものと、毒キノコや感染症を引き起こす有害な真菌類などに分けることもできます。
真菌の胞子は、他の微生物と同様に土の中や空気中などのいろいろな所に存在しています。健康なヒトには抵抗力があるので普通は真菌に感染しにくいのですが、体力が落ちていたり、何らかの病気で弱っていたりして免疫力が低下すると感染しやすくなります。例えば、小児や高齢者、糖尿病や免疫不全症の患者さん、免疫抑制剤や抗ガン剤治療中の患者さんなどです。抗菌剤(抗生物質)を長期に投与されている場合に、全身にいる細菌の数(常在細菌叢:じょうざいさいきんそう)が少なくなって体内に存在する真菌がその代わりに勢力を伸ばすこともあります。免疫不全などの特殊な状況でない健康な人でも、例えば「水虫」は皮膚糸状菌(白癬菌)というカビが、靴をはいて蒸れてしまう足の指の間などで発育してしまうこともあります。全身的に代表的な真菌感染症には、アスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコッカス症というものがありますが、今回は特に眼に関連する「角膜への感染」と「眼内(ぶどう膜炎)への感染」について書いてみます。
角膜に感染する角膜真菌症は、異物の飛入やコンタクトレンズの装用などが原因で角膜についたキズに真菌が感染して生じたり、何か他の病気の治療でステロイド剤のような免疫抑制に働く薬剤を長期に使っていて生じたりします。木の枝や葉、草などで目をついた時には注意が必要です。眼痛、充血、角膜の混濁や視力低下が生じるのも細菌感染と似ています(図1)。進行はやや緩やかなことも多いのですが、早い場合もあるので油断はできません。確定診断には角膜病変の一部をこすりとって、顕微鏡で観察したり培養したりして真菌の感染を確認します(専門病院でないとなかなかできませんが)。原因となる真菌は、カンジダ属やフザリウム、アスペルギルスという種類が多いとされています。治療に使える点眼薬や軟膏の種類が限られているために、点眼薬は病院で点滴製剤から自家調整することが多いです。点滴など全身投与が必要なこともあります。治療には比較的長い時間がかかり、入院が必要になることもあります。程度が強いと治療後に角膜に混濁が残る場合もあります(図2)。
眼内への感染は外傷などがきっかけになる場合もありますが、ほとんどは真菌性転移性眼内炎と言われるものです。いろいろな病気で中心静脈栄養やカテーテルを留置して治療している場合に、その刺入創にカンジダなどの感染が生じて血液を介して眼内に感染して生じます。このような治療をしているのはガンなどの基礎疾患があったり、体力や免疫力が落ちていたりする場合が多いので、真菌の感染も生じやすくなるわけです。血液を介して運ばれるので多くは両眼に発症し、眼以外の臓器にも感染が広がっていることもあります。眼内では血流の多いぶどう膜で炎症を起こし、網膜にも波及していくつもの黄白色の病変をつくり広がります(図3)。さらに眼内に広がると最終的には網膜剥離まで生じてしまうことがあります。状況から診断の目安がつくこともありますが、血液や眼内液を採取して真菌の存在やDNAを確認すれば確定します。治療は、早期には抗真菌剤の全身への点滴(時に眼局所への注射)、網膜剥離などの恐れがある場合には硝子体手術を行います。
図1:真菌性角膜潰瘍 図2:図1の治療後、混濁が残る 図3:真菌性眼内炎、黄白色の病変
細菌性の感染とよく似ているところも多い感染症ですが、診断に苦慮することも多く、治療薬も異なります。角膜炎も眼内炎も早期の治療が大切です。(図1、2は中国のHP、図3は順天堂大学HPから引用しました。)