脳の働き
院長 廣辻徳彦
病院に受診するのは何かの症状が気になるからですが、健診で異常を指摘されてという場合も少なくありません。先日眼底検査で緑内障を疑われて(図1:上が右、下が左眼底)受診された方がいらっしゃいました。詳しく検査すると、網膜の分厚さが両眼とも右側(図2:上が右眼、下が左眼で、図では向かって左側の部分)が赤くなって(=痛んで)いて、視野検査(図3:左眼、図4:右眼)では両眼とも左側が見えなくなっていました(左同名半盲)。確認すると、10年以上前に脳梗塞の既往があったので、それ由来の変化であったと考えられました。脳梗塞が原因で眼底に変化が来ることは少ないとされていたのですが、検査機器の進歩で脳梗塞の変化が眼底に及ぶこともわかってきています。今回は目の病気ではないのですが、脳の働きの一般的なことを書いてみます。
脳の形はご存知かと思いますが、左側の側面から見た図と断面図を示します(脳の図は中外製薬のHPから引用しました。)。緑色が大脳、黄色が小脳、ピンク色が脳幹と呼ばれる場所です。重さは成人で体重の約2%、1.2〜1.5Kg程度です。大脳はものを考えたり決めたりする司令塔のような働きをしていて、運動する、痛みなど知覚を感じる、聞く、見る、話すなどの働きや感情もコントロールしています。小脳は走る、歩く、物をつかむなど運動に関わります。皮膚や筋肉からの情報を受け取り、大脳からの運動の指令を制御し、眼球運動や身体のバランスもコントロールします。脳幹は間脳(視床と視床下部)と中脳、橋、延髄という部分からできています。視床は嗅覚以外の知覚受容器の情報を大脳へ伝えています。視床下部は、自律神経(交感神経、副交感神経)の中枢と考えられ、生体のリズムや怒りや不安などの情動行動、体液量や体温、食欲、性欲などを調節しています。脳幹には血液循環、血圧、呼吸、嚥下(飲み込み)など生命維持の基本をつかさどる中枢が集まっています。また、大脳や小脳からの運動情報を脊髄に伝え、手足や体から入ってくる感覚の情報を視床に伝える中継点の役割もあります。大脳を覚せいさせる意識レベルの調整も行っていて(網様体賦活系)、ここに回復不能な障害(脳幹死)が起こると全脳死が引き起こされます。また、12対の脳神経のうち10対の核が存在する大事な場所です。
大脳にはたくさんの溝があるのをご存知と思いますが、大きく4つの部分に分けられます。大体の場所を番号で示しますが、①前頭葉、②頭頂葉、③側頭葉、④後頭葉と言います。前頭葉は感情や判断力、創造等の精神活動、運動機能や両眼球を同一方向に向ける運動などを担います。頭頂葉は読み、書き、計算など知覚・思考の認識や統合、身体の姿勢や手足の位置、関節の屈曲の程度や認識能などを担い、温度覚、痛覚、触覚など体性感覚にも関与します。側頭葉は音を言葉として認識したり、何の音かを識別したりする聴覚認識の中枢で、言葉の意味を理解する感覚性言語中枢、新しい記憶の中枢などでもあります。後頭葉は視覚情報の中枢です。大脳は右と左に分かれていて、真ん中を通る脳梁(のうりょう)でつながって情報の交換をして共同で作業をしています。右脳(右半球)からの情報と左脳(左半球)からの情報は延髄で交差するようになっていて、右脳は左半身と、左脳は右半身とつながっています。 単純には分けられませんが、右脳は想像力や感覚的な能力、図形や音楽の認識、全体を見極める能力など、創造的な思考、左脳は計算や言語、時間の観念など、論理的な思考をつかさどるといわれています。
脳の働きについてはとてもこれだけでは書ききれません。生きていくためには身体のどこに異常があっても困るのですが、いろいろと思考して身体を動かすために一番重要な臓器と言われるのも当然の働きをしてくれています。また機会があれば脳についても追記したいと思います。