眼瞼内反症と外反症
院長 廣辻徳彦
今回は眼瞼(=まぶた)の病気の中で内反症や外反症という病気について書いてみます。眼瞼は上下で一対となっていて、瞬きをして眼球表面に涙のうるおいを与えながら眼球を保護する働きをしています。瞬きをするときに動くのは主に上眼瞼で、下眼瞼はあまり動きません。眼を閉じるときに働くのは眼輪筋という筋肉で、顔の表情を作る「表情筋」と呼ばれる筋肉の一つです。眼輪筋は瞼縁(けんえん:瞼のふち)に沿って眼瞼を円弧状(ドーナツ状)に囲んでいます。下図に示す眼瞼の断面図では、オレンジ色の不規則な形をしたものが並んで見えるようなところが眼輪筋に当たります。眼瞼の内部には「芯」のような役割で瞼の形を作ってる瞼板(けんばん)という組織があり、その中にはマイボーム腺という涙のうるおいを保つ脂分を分泌する腺があります。瞼を上げる時は、瞼板に付着する「上眼瞼挙筋」と「ミュラー筋」という薄い膜状の筋肉が働いて眼瞼を引き上げます。
下眼瞼の瞼板は左右の水平方向は目頭と目尻につながる靭帯で、縦方向は下眼瞼牽引筋腱膜という薄い筋肉(右図で下瞼板につながっているオレンジ色の層)でバランスよく引っ張られていて、下眼瞼が眼球に接した適当な位置に保たれるようになっています。何らかの原因(多くは加齢です)で靭帯や筋膜の力関係が変化すると、瞼板を支える力のバランスが崩れ、眼瞼が内側に反り返るようになってしまいます。こういう状態を「眼瞼内反症」といい、睫毛が一列そのまま眼球をこするようになるので充血や異物感を自覚するようになります(下図1)。内反症は点眼や訓練で治すことができず、手術が必要となります。上に書いたバランスの崩れる原因は、下瞼板と筋腱膜のつながる力が弱くなることが多いとされています。そこで、下眼瞼牽引筋腱膜を下瞼板にうまくつなげ直してバランスを戻す手術や、眼輪筋の
一部を短く縫い縮めて、内側に向いている分だけ外に向かせて下眼瞼を元通りの位置に戻す手術などを行います(下図2:内反症の手術後)。下眼瞼内反症は、睫毛乱生症(=逆まつげ:下図3)と混同されることもありますが、睫毛乱生症は瞼板のバランスの異常はなく、以前の結膜炎や麦粒種(=めばちこ)などの病気が原因となって睫毛の生える向きが内側に向いてしまった結果、数本が眼球にあたって眼をこする状態のことです。当たっているまつげを抜くか、毛根を熱で焼いてしまう治療を行います。
内反症とは逆に、眼瞼が外を向いてしまうのが外反症です。皮膚が弛緩(=たるむこと)して起こる「加齢性」、顔面神経麻痺のために眼輪筋の張りが保てなくなることによる「麻痺性」、熱傷や外傷、皮膚炎などが原因で眼瞼の皮膚が引きつれることによる「瘢痕(はんこん:キズ跡の引きつれ)性」などの原因があります。眼瞼と眼球の間にすき間ができてしまい眼をしっかりと閉じにくくなるので、眼球の表面が乾きがちになって乾燥感を自覚します、眼球を乾かさないために涙が多く分泌される流涙(=なみだ目)、実際に眼球が乾いてしまうと角膜の上皮障害が起こって異物感や眼痛、充血、羞明感(普通の光でもまぶしく感じること)などの症状が出ます。角膜障害が強い場合や長く続く場合は、角膜混濁や角膜潰瘍、感染症などが生じて、視力低下まで生じることがあります。程度が軽い場合は点眼薬や軟膏で経過観察も可能ですが、強い場合には形成外科的な手術が必要になります。(図4は下眼瞼外反症、図5は手術後:琉球大学形成外科のHPから引用させていただきました。)