眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e186

投稿日 2023年11月6日

水晶体について

院長 廣辻徳彦

今回はマンスリーを読んでいただいている方なら一度は目にしているはずの、「水晶体」というものに焦点を当ててみたいと思います。白内障や近視の説明をするときにご紹介しているので、いまさら感があるかもしれませんが、水晶体の構造やそれに関連する病気などについて書いてみます。
水晶体は英語で「lens(レンズ)」と言い、その言葉通り凸レンズ(虫メガネのような)の形をしています。虹彩(いわゆる茶目のところ)の後ろに位置し、虹彩の後側に続く毛様体というところと「チン小帯」という無数のハンモックの糸のような組織で繋がっています(下図:左参照)。水晶体は直径が約9mm、厚さが約4mmの大きさで、眼の一番表面にある角膜と共に、外から入ってきた光を屈折させて網膜上にピントを合わせるように働きます。透明な水晶体嚢というカプセル状の袋の中に、透明なタンパク質や水の成分が入っている構造をしています。普段は遠くを見るのに適した分厚さを保っていますが、近くを見て網膜上のピントがずれてしまうと、その情報が毛様体の中にある毛様体筋という筋肉に伝わり、それが収縮して水晶体の厚みが増します。これが「調節」という働きで、近くにピント合わせを行う作用です。加齢によって水晶体の中のタンパク質が変性して固くなり水晶体の柔軟性が衰えると、このピント合わせがうまくいかなくなって近くの物が見えにくくなる老視(いわゆる老眼)という現象が生じてきます。老視を病気と言っていいのかは難しいところですが、適切に眼鏡を使うなどしないと眼精疲労(疲れ目)の原因になります。老眼鏡を使うと老視が進みやすくなるという間違った情報が、いまだにインターネットや書物で散見されますが、老視は年齢とともに進むのであって、老眼鏡の使用で進むのではありません。我慢したり無理したりせずに、年齢に合わせて老眼鏡をお使いください。

水晶体の病気で最も多いのが白内障です。何らかの原因で水晶体の中にタンパク質が変性し、混濁してくる状態のことを言います。以前にも書いていますのでここでは詳しく書きませんが、打撲や穿孔などの外傷、糖尿病やアトピー、低栄養などの全身疾患の影響、ステロイド薬の長期服用による副作用、ぶどう膜炎や網膜剥離など眼科的疾患の影響、紫外線や赤外線、放射線の影響、など様々な原因で生じます。このような原因がなくても、「加齢」という要因で、すべての人に起こる病気です。混濁が生じる場所によって皮質白内障、核白内障、後嚢下白内障、前嚢下白内障などに分けられています(上図参照;中)が、混在することもよくあります。進行を抑制するために点眼薬も用いられますが、最終的な治療は手術となります。生まれつき発生する先天白内障(上図:右)は、染色体異常や代謝異常、風疹や梅毒などの母体感染によることが多く、混濁の程度が強ければ視力の発育を阻害することになるので早期に手術が必要になります。程度が軽い場合は正常に視力が発育することもあります。

緑内障

臨床の現場で白内障以外に見かける水晶体の病気は、「水晶体(亜)脱臼」です。文字通り、水晶体の位置が本来あるべきところからずれてしまう状態です(下図参照)。外傷によるチン小帯の断裂やマルファン症候群、ホモシスチン尿症、マルケサニ症候群などの先天異常による全身とチン小帯異常で起こることが多いのですが、原因不明の場合もあります。外傷の場合はケガをした方だけなので多くは片眼性、先天異常であれば両眼性に起こります。脱臼の程度が軽ければ視力に影響が少ないので経過観察をしますが、程度が強い場合は手術で治療します。脱臼に伴ってぶどう膜炎や緑内障が発症することもあるので、その場合は炎症や眼圧下降の薬剤を使いながら手術を行います。厳密には水晶体の病気ではありませんが、白内障の手術後に挿入された眼内レンズが外傷や何らかの原因で(亜)脱臼してしまうこともあります。そのような場合には、脱臼した眼内レンズを取り出して、眼球の強膜(外壁に当たるところ)に固定し直す手術が必要となります。