眼と神経(その1)
院長 廣辻徳彦
今回は眼と関係する神経について考えてみます。神経という言葉を知らない人はいないと思いますが、神経とは身体の中でどのような働きをしているのでしょう。始めに、ごく簡単ですが神経の総論的なことを書いておきます。神経とは身体の中の器官の働きを統制するシステムで、生命の維持のために働いています。外部からの刺激を中枢に伝える働きをし、中枢から身体の各器官へ情報(興奮)を伝えつつ器官の働きを調節する刺激の伝達系です。神経系には大きく分けて中枢神経と末梢神経とがあります。中枢神経は脳と脊髄、末梢神経は脳(脳幹)から出入りする12対の脳神経と脊髄から出入りする31対の脊髄神経に分けられます。末梢神経では、支配する領域が首から上は脳神経、首から下が脊髄神経と分かれています。他に、神経はいろいろな刺激を中枢に伝えてくる知覚神経と、中枢から各器官へと情報(興奮)を伝える運動神経という種類にも分けられます。また、これとは別(全く別というわけではありません)に呼吸や血液の循環、消化や吸収、分泌、生殖を無意識のうちに支配、調節している自律神経系があり、これは交感神経と副交感神経に分けられています。
脳神経は12対あり、それぞれに番号がついています。時計の文字盤でおなじみのローマ数字で表され、Ⅰ:嗅神経、Ⅱ:視神経、Ⅲ:動眼神経、Ⅳ:滑車神経、Ⅴ:三叉神経、Ⅵ:外転神経、Ⅶ:顔面神経、Ⅷ:内耳神経、Ⅸ:舌咽神経、Ⅹ:迷走神経、Ⅺ、副神経、Ⅻ:舌下神経という名前がついています。この中で眼球に働き、その付属器といわれる眼瞼(まぶた)や涙を出す涙腺に関係している脳神経を考えます。
眼球からの光の刺激を脳に伝えるのがⅡ:視神経です。視神経は両眼の後ろから出て、一度左右の神経が交わります。この部分を視交叉と言い、視交叉より後ろの神経を視索と言います。視索は最終的に脳の中の後頭葉というところに視覚の情報を伝えます。小さい図なのでわかりにくいと思いますが、図1は頭を上から見たところです。右視野(右側からの情報)を水色、左視野(左側からの情報)をオレンジ色で書いています。角膜と水晶体というレンズで屈折した視覚の情報は、図のように視交叉で一部の線維が乗り替わって右視野の情報が左後頭葉(大脳視覚野)に伝達されます。図に名前は書いてありませんが、視交叉から脳にいたる水色(オレンジ色)一色の線で表されたところが視索です。もしも後頭葉に脳梗塞という病気が起こってしまった場合は、右の後頭葉であれば左側、左の後頭葉であれば右側からの視覚の情報が受け取れなくなるので、半盲という状態になってしまいます(図2は左半盲の視野)。視交叉の付近には「脳下垂体」という組織があり、そこに腫瘍ができると視交叉の部分の神経が圧迫され(図1の↓の部分)て、情報が伝わらなくなります。その部分は両眼ともに外側からの視野の情報なので、この場合は両耳側半盲(図3の視野)という見え方になってしまいます。
さて、眼球を動かす神経がⅢ:動眼神経、Ⅳ:滑車神経、Ⅵ:外転神経です。眼球には内直筋、外直筋、上直筋、下直筋、上斜筋、下斜筋という6種類の筋肉があり、それぞれが各神経に支配されています。動眼神経は内直筋、外直筋、上直筋、下斜筋の4種類、滑車神経が上斜筋、外転神経が外直筋の支配神経です。神経と筋肉の動きについては2019年に「眼を動かす筋肉について」と2020年に「物が二つに見える時(複視について)」で書いているので、次回は神経のもう少し詳しい働きについて書くことにします。