眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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広辻眼科マンスリー 第m20

投稿日 2007年10月1日

欲張って生きよう

理事長 廣辻逸郎

ダニに学ぶというコラムを書きました。人に忌み嫌われるダニからも教わることが多々ありました。あの1ミリに足らない小動物の体も随分とダニの生活に適した構造があることを知ったし、その際世話になった先生から送られた小冊子で、開業医の多忙な毎日の寸暇を割いて、寄生虫博物館を創設された亀谷了医師の記録を読んで亀谷氏の学問に対する熱情にすごく感動しました。
もう残された寿命は僅かと解かっていても、新しい知識や情感に触れる文学や音楽をもっともっと吸収したいという欲望に駆られます。
わしづかみに箸を持って、「ウメー」とわめき、「あっ!この肉やわらかー」とやわらかいといい肉かと言いたくなるような食べ歩き、そして大口空けて手を打ちながら馬鹿笑いするタレントと称する芸人達のテレビを見ていると、彼や彼女達の頭の構造はどうなっているのか見てみたいものです。
人間の本能である食欲と性欲。その本能のまま生きたらどうなることか。人間が他の霊長類との違いは大脳の中の前頭葉にあると解明されています。人を人たらしめる前頭葉が壊された時、刹那的に対応し感情や欲望が抑えられない「動物のような」人間になってしまいます。(愛犬家愛猫家に叱られそうな表現になりました)
花の名前を知らなくてもどうてこともない。暑ければ冷房を、寒ければ暖房のスイッチを押せば済みます。しかしきれいな花でなく、一つでも名前を知りたいし、人生の機微に触れた芝居も観たいし、オペラやミュウジカルの舞台に感動したい。私はそう望みます。
欲張って生きよう。本能的欲望でなく、患者さんに接する限り、新しい専門知識は絶えず取り込まなくてはならないし、まだまだ知らないことが一杯ある。感動の一枚を撮りたい。一句を作りたい。貪欲なまでに毎日を過ごしたい。一日に十万個の脳細胞が死んでも、喜怒哀楽に代表される感情と記憶に関与する前頭葉の細胞は活発に働いて、脳に刻み込まれ、寿命の尽きるまで人間らしい生活を持続したいと願っております。

健康とは! 見ざる 聞かざる 話さざる

目も耳も口も閉ざして、他人にかかわらないのが世渡りに肝要という教えですが、歳をとって来ると否応無しに加齢現象として視力低下、難聴が出てきます。
眼科的に高齢者の視力低下一番の加齢疾患は白内障です。ほかに緑内障があります。最近の住民検診の成績から、40歳以上の緑内障有病率が5.8%とかなり高く、更に70歳以降では女性14.0%男性11.8%と40歳台の5~6倍に増加します。ほかに糖尿性網膜症があります。近年長寿化と共に黄斑変性症が増加しております。
白内障は手術手技や人工レンズの改良で殆ど視力の回復が期待できますが、緑内障は視神経を、黄斑変性は視力に一番大事な黄斑部が障害されるので視力の回復が困難になりますから、早期の発見治療が必要です。
加齢性変化として視力低下や聴力低下が起こってきますが、発言器官・摂食器官の口は歳をとったから話しにくい、食べにくくなることがないのはありがたいことです。神の摂理を感じます。

ダニに学ぶ

今年6月眼瞼(まぶた)にダニが寄生している患者さんを診察する機会がありました。 昔から“ダニのような人”“ダニのようにくっついたら離れない”など決していい表現には使われないし、忌み嫌われています。ダニと聞いただけで避けたい気持ちになります。人体にダニが寄生することは珍しくもなく、登山や獣との接触することでの寄生被害。家屋内のダニから喘息・アトピーなどアレルギーの元凶となることは周知のことです。
ダニの種類も数千種あって世界中に棲息しています。眼瞼に寄生するのはその中でもマダニです。 ただ眼科専門誌に症例報告される位ですからそうそう診られる事例でもありません。私の診療所で約10年前にも青年で眼瞼に寄生している例を診ているますから、10年間に2例診察の機会があったことになります。今回は比較的虫体を略完全に摘出出来て、しかも専門家にヤマトマダニ雌と同定してもらったので、ダニについて参考書を読む機会を得ました。
ダニの分類・生活史・分布・生態被害・予防駆除と詳細に研究されていること。0.3mm~3mm前後の生体を研究されていること。これはどの部門にでも言えることですが、改めて学者に敬意を表します。今回私が虫体の同定をお願いした最初の目黒寄生虫博物館の町田館長も、町田氏から紹介の東京医科歯科大篠永博士も多忙の中早々に返事を下さって、しかも無報酬で同定してくださいました。戦前戦後の日本人の生活は寄生虫や伝染病の脅威にさらされていました。しかし今日の我々の生活は当時とは大きく様変わりし病気の生態も驚くほど変化しております。しかし地味に寄生虫や微小病原体の研究を続けて下さる研究者の存在を感謝したいです。
マダニについての専門家の研究から、マダニは口器を持っていないから噛み付くのでなく、一対ある鋏角の先端のはさみが、ダニの唾液に含まれる酵素で皮膚を溶かしながら切り開き、24時間後別の作用のある唾液が皮膚の膠原組織を変性してぴったりと密着する。だから刺咬症というのは正確でないということを確認出来ました。その他興味深い事象を沢山教えられました。
終わりに「目黒寄生虫館」について一言。町田現館長がこの館を創設された亀谷了先生のことを述べておられます。それによりますと、亀谷医師は満州から引き上げて昭和23年目黒に開業し、朝5時から自転車で往診し、帰って診療。午後も、夜間も自転車での往診をされたそうで、一流の腕前に鎌倉千葉からも患者が受診されたそうです。そして昭和28年バラック建ての博物館を開設し、『博物館は古いもの珍しいものを集めただけでは発展しない、生き生きしなければいけない。必ず研究してその成果を学会に発表し、一般に公開する。』とされ、経済的に困ったときは不思議と支援者が現れて、建物も改築されたそうです。現在も入館料を取らず、寄付金で運営されています。
金を第一とし、金儲けがなんで悪い。自分で儲けた金は好きなように使って当り前。高価なワインを飲み、豪華なマンションに住んで、勝組みと称する。これが現代人の姿です。
「寄生虫をみていると実に教えられることが多い。人間は周囲の環境を変えて生活してきた。現在の環境破壊はその結果である。寄生虫は環境に自分を変えて生活している。素晴らしい生き方ではないか」人間だけが特権をもつのでなく、生きとし生けるものが自然とともに共存する。まさに仏の教えと町田館長は結んでおられます。
亀田先生は平成14年93歳天寿を全うされました。
今月は一匹のヤマトマダニから教えられたことを述べました。