緑内障治療—最近の勉強会から
院長 廣辻徳彦
8月も終わりの週末、土曜、日曜と続けて勉強会がありました。これから秋になり、週末にはこのような学会などが行われることが多くなります。今回は2日続けて緑内障の最近の知見が話題となりました。これまでにもご紹介した話題の繰り返しにもなります(過去の記事では、No.81、65、56他)が、緑内障は視力低下を引き起こす重要な病気ですので、勉強会で知識の整理をする講演を聞いたところで再度書いてみます。
今回は、割合の多い開放隅角緑内障についてのお話です(閉塞隅角緑内障や続発緑内障にも通じるところはありますが)。緑内障はその進行を抑えるために、点眼薬あるいは手術(+レーザー)で眼圧を下げる治療を行います。眼圧の値は、眼の中で循環している房水という液体の流れに影響されます。そこで、「房水の産生を抑える」、もしくは「房水を流れやすくする(房水が流れていく経路には主経路と副経路とがあります)」ことで眼圧を下げるわけです。点眼薬は以下のように分類されています(わかりやすいように点眼薬は商品名で書いています)。
①プロスタグランジン(PG)関連薬:キサラタン、トラバタンズ、ルミガン、タプロス、レスキュラ、②β遮断薬:チモプトール、ミケラン、ベトプティック、③ αβ遮断薬:ハイパジール、ミロル④α1遮断薬:デタントール、⑤ α2刺激薬:アイファガン、⑥ 交感神経刺激薬:ピバレフリン⑦炭酸脱水酵素阻害薬(CAI):トルソプト、エイゾプト、⑧ 副交感神経刺激薬:サンピロ⑨ROCK阻害薬:グラナテック、配合薬;ザラカム、デュオトラバ、タプコム(以上PG+β)、コソプト、アゾルガ(以上β+CAI)これらを、眼圧を下げる機序で分ければ、「房水産生を抑える」のは②、③、⑤、⑥、⑦、「房水を流れやすくする」のは主経路;⑧、⑨、副経路;①、③、④、⑤、⑥となります。点眼薬は少ない本数で効果が出ればそれに越したことはないので、まず1種類から初めます。それで効果がなければ点眼薬を変更または追加するように考えていきます。種類による効果の強弱や副作用を考えて選択します。おおむね、第一選択は①、第二選択に②と⑦、第三選択(ほとんど第二選択と差がないライン)に⑤と⑨が位置している感覚です。薬の種類を減らすために配合薬も使用します。数種類の点眼薬でも治療効果が得られなければ、手術を選択することになります。
緑内障の手術については、その手技や細かなところでは進化していますが、根本的な原理はこの数十年変わっていません。基本的な手技は、房水の流出路のうち主経路と言われるところの流れを良くする「流出路再建術(代表的な術式は線維柱帯切開術)」と、眼の外にバイパスで房水を逃す「濾過手術(代表は線維柱帯切除術)」です。切開法や縫合法、手術中に色々な薬剤を用いるなどの工夫で成績は上がってきましたが、十分とは言えないところです。また一度手術をするとその部分はキズ跡となって癒着や瘢痕となってしまうので、再手術の成績はどうしても下がってしまいます。しかし、近年になって、角膜に小さな切開を加えるだけで行える(=瘢痕を生じにくい)MIGS(Minimally Invasive Glaucoma Surgery:極小侵襲緑内障手術)といわれる手術が考案されています。トラベクトームという器械で流出路再建を行う、iStent(米Glaukos社)やHydrus microstent(米Ivantis社:図1)という小さな器具を房水が流れるシュレム管というところに留置する、CyPass microstent(米Transend Medical社:図2)やiStent supra(米Glaukos社)という器具を強膜と毛様体(脈絡膜)との間に挿入して房水を流すなどです。濾過手術でもExpress(図3)という器具を用いたり、チューブシャント術という方法を用いたりして、安定した房水の濾過(=安定した眼圧下降)が試みられてきています。MicroShunt(米Innfocus社:7月に参天製薬が買収!:図4)も濾過手術に使われる新しい器具です。数年すれば、今紹介したばかりの新しい方法がさらに発展したり、廃れたりしているかもしれません。機会を見てまたご紹介したいと思います。