あなたは緑内障ですか?
院長 廣辻徳彦
どのような病気かは具体的にわからなくても、白内障と並んで有名な眼の病気が緑内障です。2002年に行われた大規模調査の結果、40歳以上の日本人のおよそ20人に一人が緑内障であると推定されています。現在日本には約1億2,500万人が住んでいますが、世界で最も高齢化が進んでいる社会の一つであり、人口の半数以上が40歳以上、約4分の1が65歳以上という人口分布です。40歳未満でも緑内障になる方もいるので、簡単に計算しただけで約350−400万人の緑内障患者がいることになります。多くの緑内障は、自覚症状が少なく、しかもゆっくり進行するので受診する機会がないことも多く、統計調査でも約8割以上の方が無治療であるとされています。
今回の本題は、緑内障に使いにくい薬(病院の言葉でいうと「禁忌薬」)についてです。病院で検査を受けるとき、あるいは薬局で薬をもらうときに「あなたは緑内障ですか?」と尋ねられた経験はないでしょうか。実は緑内障にもいろいろな病型があるのですが、その中にある種の薬に注意しなければならないタイプの緑内障があるのです。ここで一から緑内障のことを書き出すとまた紙面が足りなくなってしまうのですが、緑内障は隅角という部分の形で大きく2つのタイプに分けられます。開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障です。
角膜と虹彩にはさまれた角の部分が隅角(◯の部分)。眼球内を満たす体液で、眼圧を保ち水晶体や角膜の栄養補給の役目を果たしている「房水」は、毛様体(△)で分泌され、虹彩の後面と水晶体の間から虹彩の前面を通り、隅角にある線維柱帯(図の青く見えている→の部分)。から排出される。
図のように、眼球内房水は線維柱帯というところから排出されますが、台所の流しのメッシュが目詰まりすると水があふれるように、線維柱帯の部分で流れが悪くなると眼球内で房水がたまって眼圧が上昇します。これが開放隅角緑内障です。逆に、虹彩と角膜との角度が狭い(狭隅角とも言う)と、線維柱帯の部分が物理的に塞がれてしまいます。実際には、普段は完全に塞がれてはいないので眼圧は正常範囲内です。ところが、暗いところにいたり気持ちが高ぶったりすると、瞳が開くように働きます(暗いところでは猫の目の瞳も大きくなっていますね)。瞳が大きく開くのは虹彩が縮むことで生じるので、虹彩の厚さはわずかにぶ厚くなります。すると、塞がれそうになっている線維柱帯がますます塞がれ、最悪完全に塞がれてしまうと房水の流れて行き場がなくなり急激に眼圧が上昇することになります。この場合を急性緑内障発作といい、眼球の痛み、頭痛、視力低下、充血などの症状が特徴的で、「緑内障は急に目が痛くなって失明する」という印象の原因になっています。実際には発作も含む閉塞隅角緑内障は、緑内障全体の1割程度に過ぎませんが、眼科救急疾患の一つなので注意が要ります。
左(開放隅角):隅角の角度が約30−40度で、防水の排出がスムース。(図は帝京大学HPより引用)
右(閉塞隅角):隅角の角度が狭く、房水が排出されにくい。
特に、散瞳剤や散瞳効果を持つ薬を使うと←方向に虹彩が縮み、ますます房水が排出されにくくなる。
ということで、閉塞隅角(=狭隅角)の眼の人に、散瞳効果を持つ薬を使用すると、急性緑内障発作を生じる可能性がありうるので、「あなたは緑内障ですか?」と聞かれることになるのです。開放隅角であれば、ほとんど心配が要らないことが多いと考えてください(まれに例外もありますが)。緑内障と診断されていても、自分がどのタイプの緑内障か知らないこともありますが、眼科に受診している場合は何らかの処置や治療がされているので、あまり心配はいりません。問題は自分がそうだとわかっていない無治療の閉塞隅角(狭隅角)の方です。
具体的に注意すべき薬は精神・神経系の薬剤(抗不安剤、抗うつ剤・睡眠導入剤)、中枢神経用剤(抗てんかん剤、抗パーキンソン剤)、循環器剤(ニトロール・抗不整脈剤)PLなどの感冒剤、アレルギー用の抗ヒスタミン剤、ブスコパンやコランチルなどの鎮けい剤、排尿障害治療剤(バップフォー・ベシケアなど)、アトロピンや眼科検査に使う散瞳剤など多岐にわたります。内視鏡検査の際にも聞かれることが多いと思います。隅角のタイプは診察すれば大体わかりますので、ご心配があればご相談ください。