眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e96

投稿日 2016年5月2日

妊娠・授乳と薬剤(点眼剤)について-その2-

院長 廣辻徳彦

妊娠中、授乳中の服薬については、先月ご紹介したように添付文書上は危険性を除外することができません。とは言うものの「可能性の問題」となるので、実際服薬の際にはメリットとデメリットとを秤にかけることになります。FDA(アメリカ食品医薬品局)のFDA薬剤胎児危険度分類基準や米国小児科学会の基準など、参考にすべきものが多くありますが、妊娠中であれば催奇形性の因子を中心に考えれば、絶対過敏期(妊娠0~27日目)、相対過敏期(51~84日目)、比較過敏期(85~112日目)、潜在過敏期(113日~出産日まで)の順に影響が強くなります。胎児毒性という点から考えれば妊娠後期に影響が強いと言えます。また、概して言えば授乳時よりも妊娠中の方が薬剤の影響を受けやすい傾向にあります。全部をここに転載するわけにはいきませんので、代表的な薬剤について記載します。
妊娠中にそうなってしまう確率は低いものの、最も影響を受ける(=避けなければならない)薬剤は抗がん剤です。抗がん剤自体が細胞の分裂を抑制したり、細胞に対して毒性を持ったりするものですから、発育過程の胎児や乳児に影響を及ぼすのは明らかです。「がん」になっていることで母体もただならぬ状況にあります。基本的には母体の治療が優先されるのですが、薬剤を使用するならできるだけ妊娠を継続させてその後治療を開始するとか、妊娠の中止を考えざるを得ないとか、ケースバイケースで考えることになります。
抗がん剤は特別な場合だとして、比較的頻度の高い使用薬剤には、解熱剤や抗炎症剤、抗生剤、ステロイド剤や抗不安剤、降圧剤などがあります(今回は、薬剤に対してのアレルギーについては考えないで話を進めます)。薬局で手に入れられる日常的な病気の薬(風邪薬や鎮痛薬)に中で、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンやロキソプロフェンという成分であれば、対照的に使うことで問題が生じることはほとんどないようです。抗生物質については、ペニシリン系やセフェム系の第1世代(比較的以前から使われているもの:現在は第4世代まであります)、エリスロマイシンといった薬は安全と言われています。キノロン系(商品名タリビッドなど)の薬は「妊婦禁忌」と添付文書にはありますが、明らかな有害事象は確認されていない様子です。喘息やアトピーなどアレルギーに関連する持病があれば、抗アレルギー剤やステロイド剤を服用していることが多いはずです。ステロイド剤は比較的安全で、抗アレルギー剤の中でも比較的問題なく使用できる薬剤がありますので、医師と相談の上薬を選択するのが良いようです。神経症や不眠症などの心の病気の場合は妊娠がわかって急に薬を止めるわけにもいきません。実際には影響がないことが多いようですが、計画的な妊娠を考えるのも方法です。てんかんに対する薬も影響が大きいと言われているので、薬でのコントロールと妊娠や授乳については医師とよく相談が必要です。
さて、このマンスリーは眼科のコラムですので、是非とも点眼薬についてのことを書かなければなりません。おそらくこれまでの流れで概ねご理解いただいていると思いますが、点眼薬は妊娠や授乳にほとんど影響がないと考えてよいと言えます。というのは、内服薬に比べて全身に行き渡る量が少ないからです。例えば、緑内障の代表的な点眼薬であるキサラタンは、「妊娠中の使用は有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ」、「授乳中は使用の際は授乳を中止させる」と添付文書にあります。これは、動物実験で「臨床用量の約80倍量(5.0μg/kg/日)を静脈内投与したことにより、流産及び後期吸収胚の発現率増加、胎児体重の減少が認められた。」ことに基づきます。濃度0.005%のこの点眼薬を両眼に1滴ずつ点眼した場合、1滴量0.05ml×2=0.1mlが点眼されることになり、その中に含まれる薬剤量は5μgとなります。50kgの大人が点眼する場合の1日の使用量は0.1μg/kgとなるわけですが、点眼すると数割はあふれてしまい、眼球に作用する以外で全身に吸収される量はさらに少なくなります。動物実験の使用量に比べると数百分の1以下であるならば、その影響は少ないと考えるのが妥当なところでしょう。抗菌剤やステロイド剤、抗アレルギー剤などの点眼薬も妊娠中や授乳中の注意点は同じように書かれていますが、ほぼ問題なく使用できます。
もちろん点眼薬であっても、薬剤そのものの使用禁忌である場合は妊娠などに関係なく使用してはいけない場合もあります。チモプトールという緑内障点眼薬では死亡例の報告もあるぐらいです。妊娠、授乳は母体、胎児、乳児にとってとても大きな事柄です。少しでもリスクを避けてと考えたいところですし、添付文書を無視してなんでも大丈夫というわけではありませんが、お母さんの治療も大事ですので、主治医と相談してよく考えていただきたいと思います。