眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e91

投稿日 2015年12月1日

角膜について

院長 廣辻徳彦

「角膜」という名前は、みなさんもよく耳にすることがあると思います。いわゆる「黒目」の一番表面にある透明な膜です。外部からくる光は、まずこの角膜を通って眼の中に入り、水晶体を通って網膜で認知されています。角膜は単に光が通過するだけではなく、ドーム型の形状をしていて、水晶体とともに凸レンズとして網膜に光のピントを合わせる働きを持っています(細かなピント合わせ=調節をするのは水晶体の役割です:前々回のマンスリー参照)。角膜が透明であってこそ、光がきれいに眼の中に入ってきて物を見ることができます。これまでもコンタクトレンズやヘルペスに関するところで角膜について取り上げてきましたが、今回は「角膜」そのものについて少し詳しく書いてみます。

角膜の形は直径約12mm、厚さは中央部で約0.5mm、周辺部では約0.7mmです。さらに内部は、外側から順に角膜上皮、ボーマン膜、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮という5層の構造に分かれています(左図参照)。角膜上皮は重層扁平上皮細胞といって何層にも重なっている透明な細胞でできています。眼の一番外側にあり、細菌なども簡単には侵入できない構造です。上皮細胞にキズがついた場合は、角膜の周辺部にある幹細胞(細胞を作る基となる細胞)が分裂して上皮を再生します。それに対して、角膜内皮細胞は6角形の単層上皮から成り、角膜の透明性を保つのに大事な役割を果たしています。角膜内皮細胞は、上皮細胞とは異なり、一度障害されると再生できません。障害された細胞の周囲の細胞の面積が大きくなって、傷んだ細胞の面積分を補います。
さて、身体の組織は血液から酸素や栄養を供給されていますが、角膜は透明な組織で血管がありません。角膜には、涙液と前房水(角膜と虹彩の間にある液体)から酸素などが供給されているのです。涙液は角膜にとって、切っても切れない大事なパートナーと言えます。さらに、涙液には角膜を覆うことで表面をなめらかにする役割があります。角膜は凸レンズの役割も持っているので、表面が常に滑らかな状態でないと視力が安定しません。涙液は、表層に涙の乾燥を防ぐための油層があり、それと角膜上皮との間を水分とムチンという物質からなる液層が満たしているという2層構造をしています。涙液の異常や角膜上皮の異常、乾燥感などの不快感などが生じると「ドライアイ」という診断がつくことになるのですが、ドライアイについては以前のマンスリーをご覧ください。
普通に目をこするだけで「目にキズがつく」ことはありません。しかし、砂や鉄粉が入る、枝などでこするとか突くとか、外力が働くと角膜上皮が障害されることがあります。角膜自体が穿孔してしまうというような特別な事態でなければ、ほとんどは跡形なく治ります。薬品が目に入るとか細菌などに感染(図1)してしまったときも適切な治療で回復しますが、強い薬品であったり感染の程度が重症だったりすると、角膜に白い混濁が残ることがあります。これを瘢痕治癒(はんこんちゆ)といいますが、混濁が角膜中央にあると視力に影響が出ることもあります。また、コンタクトレンズを装用すると、角膜がレンズに覆われてしまうので、角膜表面の涙液交換ができにくくなります。酸素透過性の高いレンズでも、装用中の角膜表面の酸素濃度は3000m級の高山と同じぐらい(地上の3/4)です。酸素不足になると細胞に障害が出る可能性が高くなり、角膜に血管が侵入したり、角膜上皮に傷がついて(図2)細菌の感染が起こりやすくなったり、中には角膜内皮が減少(図3:左が正常、右が減少した状態)して角膜が白濁してしまう(水疱性角膜症)こともあります。角膜のひどい障害や混濁に対しては、最終的には角膜移植が必要になることもあります。直径1cmあまりの小さな組織ですが、角膜は大事にしてください。