眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療社団法人 広辻眼科

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眼の病気 No.e138

投稿日 2019年11月1日

緑内障に対する薬剤の添付文書の改訂

院長 廣辻徳彦

よく内科や耳鼻科でお薬を処方されるときに、「緑内障は大丈夫ですか」と尋ねられることがあると思います。6年ほど前のマンスリーNo.62でもこれについて書いたのですが、どうしてこのようなことを聞かれるかというと、ある種類の薬剤の添付文書の中で、薬剤禁忌(=この薬を使用してはいけませんという意味)の欄に次のような文言が記載されてきたからです。薬剤の使用禁忌:「緑内障の(ある)患者」、「緑内障、尿貯留傾向のある患者」「(急性)狭隅角緑内障の(ある)患者」といった内容です。このようなことが記載されていると、このお薬を処方して何か不都合が生じた場合に問題となってしまいます。本年6月に厚生労働省から、この内容についての新たな通知がなされました。どのような薬に対しての添付文書が改訂されたのか、またその意味はどういうことかについて今回は書いてみます。
「ある種の薬」というのは、瞳を大きく開く(=散瞳と言います)作用を持った薬のことです。瞳の大きさは明るいところで小さくなったり、暗いところで大きくなったりというように自動的に働いています。自分の意志で調節しているわけではなく、自律神経という神経で調節されているのです。自律神経には交感神経と副交感神経という2系統の神経があります。交感神経を刺激して働かせる薬の中にはアドレナリンという薬がありますが、よく小説で気合が入っている状態の時に、「アドレナリンが身体中を駆け巡って」などと表現されているので名前を聞かれたことがあると思います。このアドレナリンが眼に働くと瞳は大きくなります。副交感神経を刺激するものの代表格にアセチルコリンというものがあります。このアセチルコリンが眼に働くと、瞳が小さくなります。言いかえれば、アドレナリンのような交感神経の働きを強くする薬か、アセチルコリンの働きを弱める性質の薬(これを「アセチルコリンに抵抗する薬=抗コリン薬」と言います)を使用すれば瞳が大きくなるということです。アセチルコリンは身体中の副交感神経に関わるところで働いています。病気の中にはこの働きのバランスが悪くなって症状がひどくなるものもあるので、抗コリン薬を使って治療する身体の病気はたくさんあるのです。
ところで緑内障という病気についても何回か紹介してきましたが、角膜と虹彩との間の角度の大きい(広い)場合を開放隅角、角度の小さい(狭い)場合を閉塞隅角(=狭隅角)と分類しています。簡単な図を示します。隅角が広い(開放している)のか狭い(閉塞している)のかは肉眼ではわかりませんが、一般的にはその比率は隅角が広いタイプが多く、緑内障の中でも10人中9人は開放隅角タイプです。

隅角が広い場合には、抗コリン薬などで散瞳が生じてもほとんど変化がありませんが、隅角が狭い場合に眼圧が急上昇する場合があります。散瞳によって急激な眼圧上昇が起こることを「急性緑内障発作」と呼び、この場合は緊急の処置を要することになります。しかし、閉塞隅角タイプであっても隅角の狭さの程度で散瞳による眼圧上昇が起こる確率も異なり、すべてに発作が起こるわけでもありません。開放隅角タイプでは抗コリン薬を使用しても眼圧に異常がほとんど起こらないのに、今まで「緑内障」と一括りにして抗コリン薬の薬剤禁忌にされていたというおかしな状況だったわけです。そこで、用語も狭隅角から閉塞隅角という言葉に統一して、抗コリン薬の使用禁忌を「閉塞隅角緑内障の患者」とし、開放隅角緑内障の患者については「慎重投与」と改訂案を示したのが今回の通知ということになります。抗コリン薬は精神・神経系の薬剤(抗不安剤、抗うつ剤・睡眠導入剤)、中枢神経用剤(抗てんかん剤、抗パーキンソン剤)、循環器剤(ニトロール・抗不整脈剤)PLなどの感冒剤、アレルギー用の抗ヒスタミン剤、ブスコパンやコランチルなどの鎮けい剤、排尿障害治療剤(バップフォー・ベシケアなど)、アトロピンや眼科検査に使う散瞳剤など多岐にわたります。これからは、内科などで「閉塞隅角緑内障ではないですか」と尋ねられることになるかもしれません。ご自分の隅角のタイプは、眼科を受診されればわかりますのでご相談ください。なお、白内障手術後は開放隅角となるので、抗コリン薬などの使用制限はほとんどなくなります。