学会に出席して
理事長 廣辻逸郎
春の日本眼科学会に久しぶりに出席してきました。秋には臨床を主にした臨床学会がありますが、春は基礎的な部門の研究発表が主になります。学会はそのほか眼の部門別例えば角膜・白内障・緑内障・コンタクトレンズ等々開催されて、大学や大病院の先生だけでなく、開業の医師も熱心に研究勉強されています。各演者の講演を聴くことで新しい診断法や治療の傾向を知ることができて、毎日の診療に役立てております。
今回特に印象に残ったのは、東京医科歯科大望月教授の特別講演でした。特別講演は教授の退官前に研究の集大成を講演されることが多いのですが、今回は教授が卒後三十数年取り組んでこられた『眼内炎症とその局所防御機構』の講演でした。難しい話は避けますが,眼に病気が起こるときにそれに眼がどのように対応して防御するかの大変地道な研究で、ベーチェット病や原田氏病という難病の治療につながる研究です。明快な講演に感動しました。
教授は当然大学病院でたくさんの患者さんを治療しなければなりませんし、その上研究や教室員や学生の指導教育があります。さらに各種の学会に演題を出し出席しなければなりません。大変な激務です。そしてこのような研究はとても一人で出来るものではなく協力者が必要です。
今話題の京大の山中教授のips細胞の研究も協同研究者の協力あってのものですし、多額の研究費が必要です。
現在大学6年で卒業して2年間研修し、更に4年後には眼科専門医の試験があります。ストレートに行っても30歳になっています。
教授は講演の最後に,この研究成果は、先達の研究基礎と直接の指導者そして共同研究者あってのことと、その氏名を全部列記して謙虚に謝辞を述べられ、後進への期待の言葉に満場の拍手で閉幕しました。
小児科・産科・麻酔科医の不足が言われておりますが、新しい研修医制で地方の大学の医局員は全く不足し、診療もそして大事な研究医師も少なくなっております。毎日の地道な基礎研究あってこそ新しい診断・治療法が出来て健康に繋がっていきます。現在の医学教育制度に些かの不安を覚えます。
健康とは! 続学会に出席して
学会出席のもう一つの収穫は器械展示です。国内外最近の新しい診断機器が展示されています。私が入局した半世紀前は大学病院といっても、暗室に暗室灯とルーペと小さな反射鏡があるだけで、それでも前述した原田氏病やベーチェット病の眼底を眼科医は必死になって精細に観察記載して診断されていました。現在はどの小さな眼科診療所でも自動屈節計・眼圧計・細隙灯・倒像鏡等設置されています。
今回は3次元診断出来るOCTの新種です。高速・高解像度のスキャンシステムで、眼の組織画像をカラーでさまざまな角度から病態情報を提供してくれます。
網膜の小出血や浮腫等僅かな病変もきれいに出してくれます。視神経も撮れますから緑内障の診断や経過観察にとても威力を発揮してくれそうです。アタッチメントを装着すると角膜の状態も前から後ろまできれいに組織を切ったように写してくれます。近視手術の後など解りやすいでしょう。
この機械はまだ大学病院でもあまり置かれてないようです。目を見張るような高価です。
どんどんと精密で診断に役立つ器械が開発されてきます。CT・MRIもう周知の器械になりました。どの部門でもこのように進歩しますから医療費が高くなって来て当然です。金持ちでなくても誰もが恩恵を受けられるような保険制度が続くことを願っております。
今月は学会特集で“健康とは”をお休みしました。