秋の空すみ菊の香たかき十一月
理事長 廣辻逸郎
十月末に今年の文化勲章と文化功労者の受賞者発表がありました。学問・文学・音楽・演劇あらゆる分野の権威者が選ばれています。 奥谷博(洋画)藤島昭(光化学・電気化学)氏等五名。文化功労者には芝祐靖(雅楽)斯波義信(中国史)氏等十五名で功労者の中に重量挙げの三宅義信氏、コシノジュンコ氏の名前がありました。コシノさんは大阪岸和田出身でお母さんは小篠綾子さん。2011年下半期NHKドラマ「カーネーション」に描かれたコシノ三姉妹の次女。世界で名だたるファッションデザイナーで、カバンからあめは出て来ないでしょうがどこか大阪のおばちゃん感があります。
京都国立博物館の国宝展は数日で十万人以上の来館者で長蛇の列に並ばないと入館できそうにありません。私はTV画面の解説で辛抱します。大昔からどうしてこれだけの素晴らしい技術工芸藝術を身に付けたのでしょう。繊細な色使いや線描。化学染料のない時代に自然界から色を取り出す技はどうして得られたのでしょう。地球上まだ交通もままならない時代に各大陸人種夫々高度な文化生活を送っていたことは驚異です。
前にも何度か記しましたが、終戦前戦争一筋、空襲に怯え、空腹に耐え読書もままならなかったが終戦になって闇市ながら多少は食糧も入ってお腹が満たされると、書籍・映画・音楽・演劇を求めました。まだ紙も十分でなく粗雑な紙の印刷物も売れエロ本も出回りましたが哲学入門という難しい本も学生は競って買い求めました。労働者は歌声喫茶でロシヤ民謡のトロイカなど大声を張り上げて歌い、アベックは音楽喫茶で静かにベートーベン・メンデルスゾーンを聞きました。図書館でレコード鑑賞会が開かれどの会場も満員でした。
読む、歌う、観る、飾る、生きていくのになくてもいいものですがそれを自然と求める心が肉体だけでない人間を形成するのでしょう。 今月の表題は戦前十一月三日明治節に歌われていた小学唱歌『明治節』の3番の第1節です。文語体で難しい言葉をわからないままも歌っており、国民みんなが小学唱歌を折に触れ歌いました。現在クラシックから童謡まで幅広く音楽が流れ、若い歌グループも輩出しておりますが国民みんなが親しんで合唱する歌がないのは私が知らないだけなのか?
澄み切った秋空のもと菊華展で丹精込めて育てられた大輪の菊をめでるもよし、展覧会巡りや今月後半には紅葉も楽しめましょう。
健康とは! 長寿者万歳!
先日今年100歳になられた患者さんが来院されて、直接診療から離れている私が元気にしているかと尋ねられました。職員の連絡に待合室まで顔を出すととても喜んでくださいました。冥利に尽きます。ご家族が付添っては来られましたが、ご自分で歩いて来院されたことをお喜びしました。息子さんも80歳になって老老介護と笑っておられました。孝行という言葉は最近聞かれなくなりましたが、親を大事にする姿は子どもがしっかり見ております。親を粗末にぞんざいに接していると自分が高齢になった時同じ扱いを子から受けましょう。
100歳を超えた方が7万人に近い昨今、もう10年もすれば軽く20万人を越し、それだけ増えればもう国からお祝いの銀盃授与も無くなりましょう。新聞TVの報道は連日少子高齢化を報じ、老人が溢れて財政悪化の元凶と解説しています。高齢の皆さん何も遠慮することはありません。現在の平和で豊かな日本になるよう貢献したのはあなた達の世代ではないか!灰燼に化したこの国の複興にどれだけ寄与したか。年間出生300万団塊の世代、厳しい入学・就職・結婚を戦い抜き、職場では早朝から遅くまで働き、少々不便な郊外や坂の上であっても自宅を買い求め、家族を守ってこつこつと家の返済を済ました。勿論家族の協力があってのことではありますがよく働きました。名もなき大衆一人一人の汗水の結晶が実ったものです。
文献によると平均寿命は縄文時代30歳 室町33歳 江戸41歳 明治44歳 大正45歳 昭和47年52歳 平成28年81歳で、約30年の間に30歳延長しております。人生60どころか60歳定年ではまだシャンシャンして隠居の顔ではありません。定年は人生の終わりでなく始まりだと生涯現役の気概が大事でしょう。高齢になるにつれ体力・知力の衰えは否めませんが身体は使うように作られています。頭も体も使いましょう。俳優の伊東四朗さんは舞台ドラマの稽古でも台本を持たず科白を頭に演技に入いられるそうです。円周率3.14を1000台まで覚えたと話されていました。現役時代習得した技術を生かせて収入になれば最善ですが、健康で家庭円満はお金に換えられない宝です。IT(情報技術)AI(人工知能)も急速に進歩しております。労働の形も変化しました。年齢を忘れて働ければ働き、隠居になれば余生を精一杯楽しみましょう。ボランチァもよし。寝たきり、認知症から縁のない毎日でありますように。長寿者万歳と喜べる毎日が送れることを願っております。